ALIC/WEEKLY
ワシントン駐在員事務所【犬飼 史郎、道免 昭仁】 1.カンクンWTO閣僚会合−課題を残し閉幕(メキシコ) 9月にメキシコのカンクンで開催された第5回世界貿易機関(WTO)閣僚会議 は、「今回の後退にかかわらずドーハ閣僚宣言および決定を再確認し、これを完全か つ誠実に実施することを改めて約束する」こと等を趣旨とする声明を発表するととも に、交渉そのものは継続するとの方針を確認して閉会した。しかし、12月9日にジ ュネーブで開催されたWTO一般理事会非公式会合では、交渉の再開に向けた議論 がなされたが、依然として加盟国間の隔たりは大きく、交渉は暗礁に乗り上げた状 況にある。 2. カナダにおいてBSEが発生(カナダ) 5月20日、カナダ・アルバータ州においてアンガス種雌牛1頭のBSE発生が確 認された。主要な牛肉の輸出先である米国をはじめとする貿易相手国は直ちに牛肉 等の輸入を停止したために、肉用牛業界のみならず酪農にも深刻な影響が生じた。 このため、カナダ連邦政府、州政府は低落した生体価格を生産者などに補てんする 全国BSE回復プログラムをはじめとし、600億円を超える対策を実施した。米国 は9月1日より30カ月齢未満の牛由来の骨なし部分肉等の輸入を再開し、現在30カ 月齢未満の牛生体等の輸入再開に向けた国内手続きを進めている。 3. 米国、対日輸出牛肉のBEVプログラムを開始(米国) 9月1日から米国農務省(USDA)は、公衆衛生上の影響は極めて小さいとし て、カナダからの30カ月齢未満の牛由来の骨なし部分肉等の輸入を再開した。他方 、重要な牛肉の輸出先である日本からの要請に基づき、科学的な正当性はないとし つつも貿易上の利益を確保するために、米国内でと畜されたことを証明する牛肉輸 出証明(BEV)プログラムを開始した。 4. 米国、二国間自由貿易協定交渉を積極的に推進(米国) 米国とチリは6月6日、二国間の自由貿易協定に調印した。この協定は、双方の 国会での批准手続きが終了し発効すると、米国と南米諸国の間での初めての包括的 な自由貿易協定となる。畜産物では牛肉などに経過措置が採られる。米国は、これ に先立ち5月シンガポールとのFTAにも調印している。米国は、FTAの推進に よりWTOへの波及効果等も追求するとし、豪州、米州自由貿易地域(FTAA)、 中米5カ国、モロッコ、南部アフリカ関税同盟諸国との交渉を進めている。 5. 米生産者団体、自主的な生乳生産削減プログラムを始動(米国) 米国最大の生乳生産者団体である全国生乳生産者連盟(NMPF)は生乳価格回 復のための生乳生産削減等のプログラムを始動した。NMPFは参加者から徴収し た約66億円を財源に今後1年間で約54万トンの生乳生産の削減とそれによる1キロ グラム当たり85銭の乳価の上昇を目指す。今回の自主的な取り組みが成功した理由 として、乳価が過去にない低水準となり、もはや政府による対策のみでは価格の回 復が望めない状況にあったことが挙げられる。他方で、2004年農業予算の審議の中 で、酪農政策をめぐる議論が活発化することが予想される。 6.NAFTA締結10年、米・墨間のセンシティブ品目の対立は顕在(米・墨) 北米自由貿易協定(NAFTA)は本年、発効から10年を迎え、メキシコにおけ る米国からの豚肉および鶏肉への関税およびTRQが撤廃された。しかし、鶏肉で は、米国からの「もも肉」の輸入急増を恐れるメキシコの生産者とアンチダンピン グ措置発動を恐れる米国の業界の思惑が一致し、「もも肉」に限り2008年までのT RQとセーフガード措置を継続することについて両国間で合意した。豚肉にあって は、生産者団体からのダンピング調査の要請を受けたメキシコ政府が、事実確認の ための調査を行っている。実質的な関税撤廃を前に先送りされた問題が再燃した形 となった。 7. 追加的な災害対策などを含む2003年度予算法が成立(米国) 2003年度の農業歳出予算法が2月20日、一括歳出予算法として成立した。2002年 農業法に基づく予算額を超える追加的支出は認めないとするブッシュ政権の反対を 押し切り、約3,348億円の追加的な農家支援策が執行されることとなった。しかし、 この増加分は、2002年農業法の実施期間の最終年である2007年度から2013年度の 環境保全対策費の減額によって相殺される。 8. FDA、バイオテロ法に基づく食品関連施設登録などの4つの規則を制定(米国) 2002年6月に制定されたバイオテロ法に基づき米国食品医薬局(FDA)は、バ イオテロリズムや公衆衛生上の緊急時に対する予防、対処などを目的とし、@食品 関連施設の登録、A流通過程における記録保持、BFDAによる不信な食品の暫定 的流通禁止 C輸入食品に対する事前の届け出−の4つの規則を制定した。また、 この規則の執行を適切に行うための検査官の増員なども行った。 9. 原産国表示義務化をめぐる議論が活発化(米国) 2002年新農業法により2004年10月から牛肉、豚肉をはじめとする農畜産物に対す る原産国の表示義務(COOL)が課せられる。これに先立ち米農務省(USDA) は、任意のCOOL実施ためのガイドラインを制定している。義務化まで一年を切 り、関係団体の利害を反映した動きが活発化するとともに議会の動きも慌ただしく なっている。7月に下院で可決された2004年度農業歳出法案では、食肉(牛、豚、 羊)のCOOLに対するUSDAの予算執行を停止する内容が盛り込まれ、食肉の COOL実施が少なくとも1年延長される可能性も出てきた。しかし、11月に上院 で可決された2004年度農業歳出法案では、この内容は盛り込まれなかった。今後は 両院協議会の場で食肉のCOOL実施について議論されることとなっているが、来 年10月からの完全実施となるのか依然として不透明である。 10. 25年ぶりに畜産環境強化のための規則を改正(米国) 米環境保護庁(EPA)は、水質保全法(CWA)に基づく大規模畜産経営体( CAFO)に対する規制強化のための規則を25年ぶりに改正した。今回の改正では、 これまで一部の例外を認めていたCAFOに該当する農家もすべて規制の対象にす るとともに、CAFOにおける家畜排せつ物の管理を徹底させることによって、畜 産経営体からの水質汚染物質の排出をさらに抑制する。
元のページに戻る