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EPA、畜産環境規制強化のための最終規則を公表(米国)


畜産経営に対する25年ぶりの規制強化
  米環境保護庁(EPA)は2002年12月16日、水質保全法(CWA)に基づく大
規模畜産経営体(CAFO)に対する規制強化のための最終改正規則を公表し
た。今回の改正は、これまで一部の例外を認めていたCAFOに該当する農家
をすべて規制の対象にするとともに、CAFOにおける家畜排せつ物の管理を
徹底させることによって、畜産経営体からの水質汚染物質の排出をさらに
抑制することが目的であり、現行の規則制定から25年以上を経て初めての
見直しとなる。


2年前の第1次案からは後退した内容

  しかし、EPAがおよそ2年前(2001年1月)のクリントン政権時代に公表
した第1次案に比べると、いくらか緩和された内容となっている。これは、
規制対象農家の拡大や、家畜排せつ物の管理コストの増大を懸念する全米
最大の農業団体ファーム・ビューロー(AFBF)をはじめ、全国豚肉生産者
協議会(NPPC)といった畜産の専門生産者団体などからの強い反対が背景
にある(当時寄せられた1万2千件以上のパブリックコメントの多くが批
判的なものであったとされる)。

 今回の最終規則の主なポイントは、次の通りである。

@規制対象農家の拡大
   CWAは、全国汚染物質排出排除システム(NPDES)に基づく許可を受け
  ていない点源汚染源(CAFOもこれに該当する)からの汚染物質の排出を
  禁止している。第1次規則案では、そもそものCAFOの要件を厳しくし、
  それまでの1,000家畜単位(注:豚2,500頭、肥育牛1,000頭、乳用成牛
  700頭、鶏10万羽などに相当)以上という基準を、最も厳しいオプショ
  ンでは300家畜単位以上にまで広げるといった提案がなされていた。
    
    今回の最終規則では、CAFOの要件自体の見直しは行わないが、これま
  で認められていた例外(注 : 25年に1度の発生頻度で、24時間続く暴
  風雨に見舞われたようなときだけ汚染物質を排出する経営体や、排せつ
  物の乾燥処理を行う家きん飼養農家などには NPDESに基づく許可取得義
  務はないという規定 )を廃止し、CAFOの要件に当てはまるすべての経 
  営体がNPDES に基づく許可を受けなければならないこととされた。これ
  により規制対象農家の数は、全米約23万8千戸の舎飼主体の畜産経営体
  (AFO)のうち、これまでの約4,500戸から約1万5,500戸(第1次規則
  案では最大約3万9千戸)にまで増加するとEPAは見込んでいる。
  
A栄養分管理計画の作成
   NPDES の許可要件として、各経営体におけるたい肥の農地への施用や
  汚水処理方法に関する栄養分管理計画の作成・履行が義務付けられると
  ともに、許可取得後も年1回の報告義務が課せられることとなった。
  
B排水制限指針の更新
   すべてのCAFOに対して適用される排せつ物の適切な管理のための排水
  制限指針(ELG)が新たな技術的知見などを基に見直され、特に、新設さ
  れる施設型畜産経営体(豚、鶏など)に対してはゼロ排出基準が導入さ
  れることとなった(注:第1次案では、ゼロ排出基準が既設を含むすべ
  ての経営体に適用されるとされ、NPPC の重大な懸念事項の1つでもあっ
  た)。


生産者団体は最終規則におおむね安堵 

  以上のような最終規則の内容について、主要農業団体の反応は、将来的
な排せつ物の管理コストの増加には懸念を抱きつつも、第1次案よりも緩
やかなな規制に落ち着いたことから、おおむねほっと胸をなで下ろしてい
る、といった状況である。しかし、かつて EPAを司法の場に訴えて今回の
規則見直しのきっかけを作った全国資源保護協議会(NRDC)は「最終規則
は汚染者を第一に考えたものである」として、ブッシュ政権の産業保護優
先姿勢を厳しく非難している。
 
  なお、米農務省(USDA)は、2002年農業法に基づく環境改善奨励計画
(EQIP)をはじめとする環境保全事業の拡充により、新たな規制対象農家
などへの側面的な支援策を講じていく方針である。今回の最終規則は、官
報掲載(今年1月下旬予定)から60日以内に施行されることとなっている
が、新たに課せられる義務に応じて一定の経過期間が設けられている。
【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 1月8日発】

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