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EU委員会、CAP中間見直しの影響試算を公表


試算結果、全体としては良好
 EU委員会は1月15日、昨年7月に公表したEUの共通農業政策(CAP)に関す
る中間見直し(MTR)に関連して、MTRを導入した場合の影響試算を公表した。

  EU委員会は、この試算結果が、@直接支払いの生産からの「デカップリング」
は、必要とされている生産調整には寄与するが、生産の放棄にはつながらないこ
と、AEU委員会が提案している見直しが、市場の需給調整を大いに促進し、将
来、膨大な量の売れない農産物のために税金が費やされる恐れがないこと、B予
算の重点を直接支払いから、農村開発に移行するというEU委員会の構想、いわ
ゆる「モジュレーション」の市場への影響は小さいこと、さらに、C農家収入は、
増加するという重要な試算結果が示され、MTRの方向を支持する内容であるとし
ている。

  試算は、EU委員会が行ったものが2つ、外部の機関が行ったものが4つの計
6種類が公表された。その内容は、MTRの影響の程度には多少の差があるものの、
傾向は同じである。


繁殖雌牛頭数には影響大

  EU委員会が行ったEU 15ヵ国におけるMTRの実施による畜産部門への影響は
以下の通り。なお、「基準」とは、昨年12月にEU委員会が公表した中長期見通
しで示している各年の数値。

・牛肉部門

   牛肉生産量は、一時的な飼養中止によると畜頭数の増加による増加の後、徐
  々に減少し、2009年では、基準に対し2.8%の減少。
   デカップリングによる影響は、穀物部門では小さいものの、牛肉部門では、
  特に、繁殖雌牛奨励金などが簡略化した直接支払いとなることの影響から、20
  09年の繁殖雌牛頭数は基準に対し11.0%の減少。
   生産減少により農家販売価格は基準に比べ7.4%上昇し、消費量は1.9%減少。


・豚および鶏肉部門

   短期的(2006年まで)には、牛肉生産者価格の低下等による牛肉消費の増加
  により、生産量および消費量はわずかに減少。
   中期的には牛肉価格の上昇等により、生産量および消費量は増加。
牛肉                            (単位:%)
 
2004 2005 2006 2007 2008 2009
全頭数 ▲1.2 ▲2.5 ▲3.3 ▲3.7 ▲3.8 ▲3.8
繁殖雌牛頭数 ▲2.7 ▲5.5 ▲8.5 ▲10.3 ▲11.5 ▲11.0
生産量 0.5 1.1 0.0 ▲1.5 ▲2.5 ▲2.8
消費量 0.5 1.2 0.0 ▲1.2 ▲1.9 ▲1.9
農家販売価格 ▲2.2 ▲5.0 0.2 5.1 6.4 7.4
  (%は、基準に対する増減)

豚肉                            (単位:%)
 
2004 2005 2006 2007 2008 2009
生産量 0.0 ▲0.3 ▲0.2 0.2 0.3 0.3
消費量 ▲0.1 ▲0.3 ▲0.3 0.2 0.3 0.3
農家販売価格 ▲1.6 ▲2.9 1.1 3.0 3.5 4.5
  (%は、基準に対する増減)

鶏肉                            (単位:%)
 
2004 2005 2006 2007 2008 2009
生産量 ▲0.2 ▲0.5 ▲0.2 0.3 0.4 0.4
消費量 ▲0.2 ▲0.5 ▲0.2 0.3 0.4 0.4
農家販売価格 ▲0.4 ▲0.7 ▲0.3 0.3 0.1 ▲0.2
  (%は、基準に対する増減)

MTRの正当性を強調

 なお、この試算結果について、フィッシュラー農業委員は、「生産と直接支払い
を切り離すことが、農業者にとって最も有益な農地の利用に導くということをはっ
きりと示している。農家がより良い農業経営を目指すのに、EU委員会が彼らのチ
ャンスを邪魔することはない。中間見直しが牛肉生産をだめにするとの意見もある。
この試算では、確かに牛肉生産は3%減少することになっているが、同時に価格が
7%上昇し生産の減少をおぎない、結果として農家の販売収入は4%増加すること
を示している。また、モジュレーションを非難する意見もあるが、MTR を導入した
場合、農家販売収入は 1.7%の増加になると試算結果が示している。」とコメント
しており、委員会の提案したMTRの正当性が示されたことや、提案に基づいた見直
しを進める必要性を強調している。


【ブラッセル駐在員 関 将弘  1月15日発】 

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