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インドネシアは強気の見解
東南アジア諸国連合(アセアン)では、ベトナムなどの後発加盟4ヵ国を除き 、今年1月1日からアセアン自由貿易圏(AFTA)の共通実効特恵関税(CEPT)が完全 実施され、各国ごとに異なる一部のセンシティブ品目以外の域内貿易に係る関税 率が5%以下に引き下げられるなど、域内貿易の自由化が始まった。 インドネシア農業省のソフジャン畜産総局長は、2002年の同国の畜産物輸出額 は前年比20.2%増の2億6,700万米ドル(320億4千万円:1米ドル=120円)であり、 2003年についても同程度の増加を見込むなど、畜産は同国の農業分野の中でも、 最もAFTAを含む貿易自由化への準備が整った分野であるとの年頭談話を公表して いる。同総局長は、同国が国際獣疫事務局(OIE)により口蹄疫清浄国と認定さ れていることを始め、家畜衛生面での対応が進んでいることを強調し、将来的に は日本、韓国などへの牛肉や豚肉の輸出、EUへの鶏肉の輸出といった、アセアン 域外への畜産物輸出も不可能ではないとしている。このような強気の見解を示す 一方で、同局長は、EU向けの鶏肉にEUの求める条件が、半径10キロメートル以内 に在来鶏飼養がないこととなっていることから、在来鶏飼養の多い同国にとって は実現性が低いとする、より現実的な認識も示している。 今回の発言は、隣国のマレーシア政府が、現状の生産条件ではAFTAの完全実施 後、国内の畜産が生き残れないとして、畜産農家への注意喚起に躍起となってい るのとは対照的に楽観的なものであるが、このことは両国政府の安定性の違いを 反映したものとも推察される。 高い成長率を示す畜産 インドネシアの畜産は、98年の通貨危機の際には、生産額が前年比13.5%の減 少となったが、翌99年には早くも同6.2%増と回復に向かっており、その後2年間 は同3%台の緩やかな成長を続けてきた。2002年のインドネシアの国内総生産(G DP)の成長率が4%程度となることが見込まれている中で、農林水産分野は全分 野の平均を上回る4.6%が見込まれており、同国経済のけん引役となっている。 さらに、農林水産分野の生産額の成長率を見ると、食用作物が3.5%、アブラヤ シなどの工芸作物が5.1%、木材が5.8%、水産が6.1%となっているのに対し、 畜産は他の部門を大幅に上回る9.4%となっている。2003年もこれを上回る成長 が見込まれていることが今回の強気の見解の背景にあるものとみられる。
畜産発展の要因と今後の問題 2002年の生産額が、前年、前々年を大幅に上回る成長率となった要因について 、畜産総局は、@畜産物輸出額の増加、A家畜飼養頭羽数の増加(いずれも前年 比で肉牛2.2%増、乳牛2.0%増、豚3.6%増、卵用鶏8.3%増、肉用鶏15.2%増) 、B生産性の向上、C家畜改良の進展、D深刻な家畜疾病の流行がなかったこと を挙げている。同総局は、畜産物の消費は価格弾力性が高いことから、昨年から の経済の安定化基調に伴い、今後は国内消費の増加も畜産の発展を後押しするも のとみている。 一方で、同総局は、今後畜産の発展を阻害する可能性のある要因として、@国 内における牛の供給地域となっている同国東部における繁殖牛頭数の減少、A飼 料、種畜といった生産資材の高い価格水準、B輸入鶏もも肉との価格競争、C炭 そ病や牛海綿状脳症(BSE)といった食品の安全性に対する消費者の懸念を挙げて いる。
【シンガポール駐在員 小林 誠 1月15日発】
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