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ブラジル、牛の個体識別制度を改正


Sisbovの信頼性を高めるため、と畜40日前には登録が必要

 ブラジル農務省が2002年1月に牛(水牛を含む)の個体識別制度(Sisbov)に
関する規定を制定したことにより、EU向けに肉用牛を生産する農場は同年6月
末までに当制度に登録することが義務付けられた。(海外駐在員情報第516号、第
538号参照)。しかし、準備期間の不足等を理由に、Sisbov本来の目的にそぐわ
ない運用が輸出パッカー等によってなされたため、農務省はその運用に係る規定
の改正を前政権のときから幾度か試みたが、業界等の圧力により改正までには至
らなかった。

  こうした中農務省は、@個体識別の方法は登録等を行う実施機関(以下「実施
機関」)が決定していた現行を改め、個体登録番号や実施機関の整理番号等を記
した耳標装着を義務付け、A農務省のデータバンクに登録した翌日に、政府が公
認するSisbovの証明書を発行できる現行システムを、と畜40日前までに登録した
牛のみに発行し、かつ出荷する際には添付することなどに改正し、本年7月15日
から実施するとした。

  業界紙によれば、これは輸出パッカーに牛が搬入され、と畜までの待機中に個
体識別を行う形式的な方法を排除し、Sisbovの信頼性を高めることである。

 

Abiecは政府方針に賛同 

  Sisbovにより農場で個体識別された牛の牛肉のみをEUに輸出することはすで
に前政権により決定されていたが、業界の圧力で実態としては、本来の目的にそ
ぐわないまま、現ルラ政権に引き継がれた状態となっていた。現政権もSisbovの
規定を改正し本年2月に実施する予定であったが、結局は5月15日に今回の措置
を実施機関に通知した。

  しかし改正された規定の実施まで2カ月間と短かったため「パッカーにとって
の準備期間は不十分であり、また今や年間15億ドルの輸出により、世界の牛肉輸
出をリードしようとしている食肉業界の圧力に対抗できる政治力を現政府が持つ
か疑問である」と現地では報じられていた。

  これに対し6月には、業界を代表するブラジル牛肉輸出業協会(Abiec)は、
「本協会は農務省の決定に反対するものではなく、また新しい規定の実施時期を
さらに延期するよう圧力をかける意向もない。SisbovはEUへ牛肉を輸出するた
めの前提条件であり、完全に機能させていく必要がある。もしいずれかのパッカ
ーがこの制度に反する行為を行う場合、当協会の後ろ盾を失うことになる」と述
べ、全面的に政府方針に協力する態度を表明した。



輸出パッカーが買い付けを中止

 しかし、輸入パッカー32社は7月17日、改正された規定に適合する EU向け個体識
別牛が不足していることを理由に買い付けおよびと畜中止を決定した。これに農
務省および生産者団体が反発し、両者の関係悪化が表面化した。生産者を代表す
るブラジル全国農業連盟(CNA)はパッカー側の言い分は事実無根であるとし、
「Sisbovに理由をこじつけ、生産量が減少する冬期の価格低下を謀るためのカル
テル行為である」と非難し、農務省は「パッカー側が買い付け中止を続ける場合、
輸出に必要な衛生証明の発給を中止する」と発表し、パッカー側の圧力
に対抗する強い態度を示した。また農務省によると Sisbovのデータバンクには
470万頭が登録され、そのうちと畜40日前の条件に合うものは83万頭おり(参考:
Abiec傘下のパッカーが行う1日平均3万頭のと畜をベースにした場合27日分)、
また、エジプトやイラクなどはSisbovによる証明を求めておらず、すべてのパッ
カーがと畜用の牛を手当てできないことは考えられないと反発した。

  なお、7月18日夕刻、すべてのパッカーが買い付けを再開したことを農務省が
発表したが、今後のさらなる動向が注目される。




【ブエノスアイレス駐在員 犬塚 明伸 7月23日発】 


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