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サーズにより食品安全性への関心高まる
シンガポール農産食品・獣医庁(AVA)は7月18日から20日までの3日間に わたり、ショッピング・モールの一部を会場に「食品安全の日」の博覧会を開 催した。食品安全の日は、AVAが主催し、国内の大手スーパーマーケット・チェ ーンであるNTUCフェアプライス、コールド・ストーレジが協賛しているほか、 テレビなどマスコミも総動員の体制で行われた。小中学生は学校ごとに時間が 割り振られ、会場内で上映される食品安全ビデオを授業の一環として見させら れるほか、「食品の調理は完全に」、「生ものと調理品は分別保管」などの標 語が印刷されたマグネットなどが入った見学セットが配布された。 同国は今年3月以降、6月中旬まで急性重症呼吸器症候群(サーズ)の汚染 国とされており、サーズの防疫対策として人ごみを避けるなどの指導がされて いたため、外食産業や観光産業を中心に国の経済全体が大きな打撃を受けてき た。サーズの感染源として食用とされた野生動物が疑われているほか、同国で は97年にマレーシアで発生した豚のウイルス性脳症により、豚肉を経由したと みられる感染者が発生しており、食肉の安全性に対する関心が高まっている。 同国では、他の東南アジア諸国や中国と同様、一般に冷凍・冷蔵肉は好まれて おらず、市場の食肉販売店にも冷蔵ケースが設置されていなかったが、ウイル ス性脳症の発生以降、冷蔵ケースの設置が義務付けられた経緯がある。 基礎的な内容、一部に不完全さも 博覧会場では「家庭で」、「職場で」、「買い物のとき」と題された3種類 のパンフレットが配布されたが、内容は「食肉など生ものは冷蔵庫で保管」、 「退色したり悪臭のする肉は買わないこと」といった非常に基本的なものとな っている。 展示ブース内の資料では、鶏卵が3割程度の自給率となっている以外、同国 の食品の9割を輸入に依存しており、食肉はブラジル(36%)、豪州(24%)、 中国(13%)、アメリカ(10%)、タイ(4%)、その他(13%)からの輸入 であることが示されている。しかし、この数字には鶏肉消費の大半を占めるマ レーシアからの生体鶏輸入やインドネシアから毎日2千頭程度が輸入されてい る生体豚の輸入が含まれておらず、食肉の外国依存の実態が正確に反映された ものとはなっていない。なお、インドネシアからの輸入について、シンガポー ル政府は従来、インドネシア側からの申し入れに基づいて貿易量を非公表と説 明してきた。しかし、今年7月には、インドネシア政府が要請の事実がないこ とを確認しており、今後は公表されることになっている。 生鮮市場を抜本的に改革の意向 国内最大の生鮮食品の卸売市場であるパシル・パンジャン市場は、今年4月、 従業員にサーズ患者が発生し、市場関係者数百人が検疫措置の対象となって一 旦閉鎖された。検疫期間終了後、市場は再開されたが、出入りする人の体温検 査は続いている。しかし、現在の市場の店舗などの配置では、販売員や業者、 顧客が常時複雑に交錯することが避けられず、再びサーズが発生した場合には 有効な防疫措置を講ずることが困難であるとされている。食品安全の日の開会 式であいさつした国家開発相は、今後、同市場を廃止し、サーズ対策を含めた 衛生対策を講じた新たな市場の開設を検討中であることを表明した。現在の卸 売市場は国営だが、同大臣は、新規市場の設置場所や国営か民営かを含め広範 な検討が必要であるとしている。市場の移設には、テナントに新たな費用負担 が発生するが、サーズによって市場のイメージが低下したこともあり、テナン トも基本的には移設に賛成であると伝えられている。 【シンガポール駐在員 小林 誠 7月23日発】
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