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多民族国家と宗教休日
東南アジアの多民族国家にはそれぞれの民族の習慣や宗教にちなむ休日があり 、それらは特に10月から次の年の2月にかけて続き、いわゆるフェスティバル シーズンといわれる。シンガポールの2002年の統計資料によれば、同国の人口構 成は、中国系77%、マレー系14%、インド系8%、その他1%となっている。 今年のシンガポールの例でいえば、毎年10月末にはインド系ヒンズー教のディ ーパヴァリ、11月末にはマレー系イスラム教の断食明けとなるハリラヤプアサ、 12月末にはクリスマスがあり、翌年の1月22日に中国系の旧正月を迎える。 宗教休日と食肉消費 習慣や宗教に基づく休日は、特別な休日であり、家族や親しい人たちが集まっ て祝い、食事をするのが洋の東西を問わない一般的な習慣といえる。そのため、 食肉消費も増加することとなる。特に鶏肉については、宗教的な許容範囲が広く 基本的にどの宗教でも受け入れられている。また、羊肉についても宗教上のタブ ーは少ない。一方、豚肉は受け入れられない宗教があるものの、中国系の多いシ ンガポールでは大量に消費されることとなる。 食肉販売の現場 シンガポールの食肉販売の形態は、大きく分けて、個人商店(通常は屋内にあ り、冷蔵陳列棚を備えるが依然としてウエットマーケットと称される)とスーパ ーマーケットやショッピングセンターの地下食品売り場の量販店に分けられる。 これらの大きな違いは販売価格の決定方法にあり、量販店では定価で示されて いるが、ウェットマーケットでは一応の価格は示してあるものの、対面販売のた め基本的に交渉可能であり、買物客の交渉能力の見せ所でもある。 しかし近年は少々割高であっても衛生的でわずらわしさの少ない量販店での購 入が普及しつつある。 最近の食肉価格の動向 最近報じられた10月の食肉小売価格の動向では、今年の1月に比べて量販店で は価格の上昇が認められないものの、ウェットマーケットでは鶏肉がキロ当たり 4ドル(248円:1シンガポールドル=62円)が4.5ドル(279円)そして羊肉が10 ドル(620円)が12ドル(744円)と10%〜20%上昇している。 この要因としては、食肉供給のほとんどを輸入に頼るシンガポールでは仕入れ 価格の基準となる輸入価格に対して、大量仕入れによる量販店では仕入れ元との 交渉により価格を据え置くことが可能であるが、それに比べて少量の仕入れにな らざるを得ないウェットマーケットは価格交渉力が低いことが指摘されている。 価格上昇の背景と今後 このように仕入れ価格の上昇がある背景には、需要期を迎えたことのほかに、 このところ進んだシンガポールドルの下落と同時に原産地国の輸出価格の上昇 がある。 特に価格の上昇が認められる羊肉について見ると、その主要輸出国である豪 州では干ばつの影響で羊肉の価格が昨年を20%以上も上回るキログラム当たり 2.2豪州ドル(167円:1豪州ドル=76円)で推移するとともに、豪州ドルは6年 ぶりの高水準となっている。 そのため輸入業者は供給価格を上げざるを得ず、結果的に弱い立場のウェッ トマーケットに最初に影響が出ることとなる。 これから本格的な需要期を迎えるが、早期に価格の戻りは見込めず、今年は 消費者ばかりでなく小売関係者にとっても厳しい季節になっている。 【シンガポール駐在員 斎藤 孝宏 10月29日発】
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