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ブラジルにおける遺伝子組み換え大豆をめぐる情勢


一人の判事がGM大豆の商業的栽培につながる決定を司法官報に掲載

 8月12日付けの司法官報に、セレネ判事がモンサント社の遺伝子組み換え大豆
(ラウンドアップ・レディ:以下、「GM大豆」とする。)の商業的栽培の解禁
につながる決定を掲載したとの報道が流れた。セレネ判事は今回の決定にあたり
、700ページにも及ぶペーパーを出しており、その内容を適確に把握することは
難しいが、セレネ判事の決定により、 @ GM大豆の商業的栽培が可能となった 
A GM大豆の商業的栽培と販売を事実上禁止する第1審判決は効力を失ったが、
栽培・販売には農務省等の政府関係機関の許可が必要である−等の報道がされて
いる。

  ブラジルの連邦裁判所は、環境アセスメントの実施なしにGM大豆の商業的栽
培を認めない第一審判決を下した。また同時に、政府に環境および人体への安全
評価指針の提出と表示義務規則の策定等を求め、要求事項が履行されるまで国家
バイオ安全技術委員会(CTNBio)が安全性に関する最終的な見解を出すこ
とを禁じた。これに対し政府およびモンサント社は上訴し、連邦控訴裁判所にお
いて審理されることになった(「畜産の情報」海外編2002年12月号p73,74参照)。

  連邦控訴裁判所の判決や決定等は3人の判事により行われ、そのうちの1人セ
レネ判事は、2002年2月に栽培の解禁につながる意見を表明していた。しかし、
他の二人の判事は調査するために時間が必要であるなどとして明確な判断を示さ
ないまま1年半という長い時間が経過していた。

 また、2003年1月からのルラ新政権が、2002/03年度に収穫されるGM大豆のみ
販売が可能となる暫定令第113号(2003年3月26日付け)等を公布したこと(海外
駐在員情報通巻第573号、第577号参照)や、生産農家のほとんどがGM大豆を作
付けるといわれる南部のリオグランデドスル州における次期作付時期の10月が近
づいてきたこともあり、GM大豆に関する政府の取り扱いについて注目が集まっ
ていた。

 
今回の決定のみではすぐに栽培はできず 

  前述した700ページにも及ぶセレネ判事のペーパー内容に関しては、一方の当
事者であり最近までCTNBioの弁護士を務めていたレジナルド氏の分析内容
を紹介する。

1 セレネ判事の決定内容:

    判事は審理において係争案件を停止する権限を持っている。最近モンサント
  社は連邦控訴裁判所に、この権限を用いてCTNBioが禁じられている「G
  M作物の安全性に関する最終的な見解を出すこと」ができるよう抗告していた。
  今回セレネ判事はこれを認めたため、CTNBioは安全性に関する最終的な
  見解を出すことができるようになった。

2 1の影響:

    CTNBioは、暫定令第2191-9号(2001年8月23日付け)により安全性に関
  する判断権限を有しており、仮にGM大豆の商業的栽培に対して「環境アセス
  メントの必要性なし」との最終的な見解を出せば、栽培の可能性が生じる。た
  だしCTNBioの見解をもとに関係省庁は所管業務(例えば、農務省の栽培
  許可が必要など)を実施することから、即栽培には至らない。
  
3 セレネ判事の決定の効力:

    今回の決定は一人の判事に基づくもので、暫定的に効力を得ただけであり、
  他の2人の判事が同意すれば決定的な効力を持つことになる。ただし、これは
  最終判決ではない。

4 その他:

    現在、ブラジル消費者保護院やグリーンピースがセレネ判事の決定に上訴し
  ており、今後どうなるかは不明である。



政府は新たな法令案を検討中

 政府は現在、GM農産物やその製品に係る安全性問題を規定する法令を検討中
であり、9月にも提出されるとの報道がある。法案提出後60日間以内で審議され
る予定であるが、政治的な関心事項でもあるため、今後の動向が注目される。



【ブエノスアイレス駐在員 犬塚 明伸 8月27日発】 


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