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シンガポールへ輸入解禁を要請
シンガポール政府はこれまで、口蹄疫や残留薬剤問題を理由に、タイ産豚肉 および豚肉加工品の輸入を禁止してきた。当駐在員事務所に対してタイ農業協 同組合省畜産開発局(DLD)担当官が述べたところによると、DLDは7月にシン ガポールで開催された「食品安全の日」へ規格部長ほか担当官を派遣して非公 表でシンガポール政府と交渉を行い、DLDが冷凍豚肉の輸入解禁要請を放棄する 代償としてシンガポールが豚肉加工品の輸入を早期に解禁することに合意した。 同担当官によれば、輸入解禁に合意した豚肉加工品は、いずれもシンガポール の中国系住民にとってポピュラーな、豚肉の糸状フレーク、味付のし焼豚、タ イでカームーと呼ばれる豚足の煮物の3品目となっている。 この合意を受け、シンガポール農産食品・獣医庁(AVA)は8月末に係官を タイに派遣し、同国東部チョンブリ、ラヨン、トラート、チャンタブリの4県 の養豚場と豚肉加工場の検査を行い、検査結果を検討の上、最終的な輸入許可 を出すことが見込まれている。しかし、タイ側は当初から9月5、6日に予定 されているタクシン首相のシンガポール訪問時に覚書の調印を行い、首相訪問 の成果として豚肉輸入解禁を公表することを望んでおり、同首相の訪問までの 間に両国間に水面下で活発な駆け引きが行われる見込みである。 香港に匹敵する輸出市場として期待 タイは、口蹄疫の常在地域とされており、日本の技術協力も含めて古くから 清浄化対策を行ってきているが、周辺にミャンマーなどの汚染国をかかえてお り、これらの国から陸伝いなどで不正に輸入される家畜を完全に取り締まるこ とができず、口蹄疫の清浄化は達成できていない。一方、シンガポールは、国 土が狭隘であることなどから、国内での養豚を禁止しているなど、畜産はほと んど行われていないが、口蹄疫汚染国とされているタイからの豚肉および豚肉 加工品の輸入を禁止している。同国は中国系住民が人口の7割を占めており、 現在公表されている統計を基にすれば、豚肉消費量は1人1年当たり25キログ ラムに達している。豚肉の主な輸入先は豪州と中国(注:中国は口蹄疫清浄国 ではないが、シンガポール政府は、農場と処理場を指定して豚肉の輸入を許可 している。)とされているが、これらを上回る量を輸入しているといわれるイ ンドネシア中部のリアウ州からの輸入分が含まれておらず、実際の消費量は公 表値を上回るとみられている。DLDは、シンガポールの市場規模をタイ産豚肉 の主要輸出市場である香港に匹敵する規模と見ており、加工品で突破口を開い た後、数年以内には冷凍豚肉の輸入解禁も達成したい意向を示している。 解決に向かう薬剤残留問題 一方、香港への輸出豚肉において問題とされている抗菌剤の残留について、 DLDは4月17日以降、5,115農場、518と畜場から合計23,602サンプルを採取し 、8月末までに約半分のサンプルの分析を終了している。分析結果によれば、 抗菌剤の検出率は農場段階で2.65%、と畜場段階で0.27%となっており、DLD は大幅な改善が見られたとしている。DLDは抗菌剤が検出された8県の15養豚 場に対して、既に出荷禁止などの措置を講じている。また、これまでほとんど が内務省の所管だったと畜場についても、消費者の食品衛生への関心の高まり などを受けて今年からDLDの所管に変更されており、DLDは生産から販売(輸出 )までが一貫管理されることにより食肉の衛生問題は早々に解決されるとして いる。しかし、所管変えには県知事からの申請が必要とされており、必ずしも 順調に進んでいないことから、DLDは未登録のと畜場に対しては早急に法的措 置を講じ、食肉の衛生管理の徹底を図りたいとしている。 【シンガポール駐在員 小林 誠 9月1日発】
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