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欧州でのカンクン決裂への反応


農業分野で先進国と発展途上国の対立などから決裂
  第5回世界貿易機関(WTO)閣僚会議がメキシコのカンクンで9月10日から
14日まで開催されたが、最大の焦点である農業分野は、国内補助金や輸出補助金
をめぐり、先進国と発展途上国が対立した。農業分野の作業部会の座長を務める
シンガポールのジョージ・ヨー議長は、折衷案を提示したが対立は解消せず、海
外直接投資保護のルール作りなどをめぐっても先進国と発展途上国が対立したこ
とから、デルベス議長(メキシコの外相)は交渉継続を断念し、閣僚宣言が採択
されず会議は閉会した。


 
EUの農業分野での最大限の努力を評価

  今回の決裂に関し、欧州の関係者、関係団体がさまざまな意見を公表している。
フィシュラー委員(農業・漁業・農村開発担当)は、「EUは、この会議を成功
させる準備ができていた。われわれは、発展途上国の立場をもっと良くしようと
適切な準備をした」とコメントしている。
 
  欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)のフェイター事
務局長は、「EUはモダリティー(保護削減の基準)を形成するため最大の努力
をした。また発展途上国に有利となる提案ができるような柔軟性をもった農業改
革を行っている。今回の決裂の引き金は、農業問題ではなくシンガポール・イシ
ュー(投資、競争、貿易円滑化、政府調達透明性の問題)である。欧州の農家と
その協同組織は、欧州の農業の明るい未来を確実にするために、EU委員会がそ
のマンデート(任務)に基づいて、WTO交渉を続けることを求める」とEUの
努力を評価するとともに、「すべての国が農業および食料において弱い立場にあ
る発展途上国を支援する努力をしなければ、このラウンドは成功しないだろう」
と声明を発表している。

 また、フランスでは同国最大の農業組合である農業組合経営者全国連合(FN
SEA)など14の農業専門団体が共同で「今回の会議でEUは、発展途上国に最
低限必要なものを示した。(交渉が決裂し、交渉が中断したことについて)全世
界の農民が、自分たちの仕事、生産物の価格にふさわしい生活をするためにこの
中断を利用して議論を続けよう」との声明を公表している。



CAPのさらなる改革を求める声も

 一方、欧州消費者協会(BEUC)のムライ理事は、「共通農業政策(CAP)
がカンクンの閣僚会議における進展を事実上、台無しにした。これは不幸な結果
である。なぜなら、欧州の消費者は、欧州の農業産物を世界の市場に(輸出補助
金により)投げ売りするため、とても高い価格で支払い続けることになる。これ
は発展途上国の農家にもダメージを与えることとなる。CAPについては、発展
途上国など第3国のためだけでなく、EU自身のためにも、早急にさらなる改革
を行う必要がある」とCAP改革の再検討を求めている。



WTO交渉の手続きと規則について

  ラミー委員(通商担当)は、「現在のWTO交渉の手続きと規則は、責任の重
さが考慮されていない。全会一致の方法で146の加盟国のかじを取ることはでき
ない。決定方法には改良の必要がある」と現在のWTO交渉の手続きと規則を批
判している。

  一方、これに関連し、WTOよりもFTAに重点を移すことが必要であるとい
う報道が欧州でもある中、BEUCは、WTO交渉から逃げるのではなく、WT
O交渉を通して発展途上国やEUにとって互いに有益となるよう、お互いが働き
かけを続けることを求めている。
 
【ブラッセル駐在員 山ア 良人 9月24日発】

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