ALIC/WEEKLY


供給過剰により豚肉価格下落(マレーシア)


供給過剰により豚肉価格低迷
  豚肉の農家販売価格は、8月下旬以降急速に下落し、2003年9月上旬には、首
都クアラルンプール中央市場で生体重100キログラム当たり約310リンギ(9,300
円:1リンギ=30円)で取引されており、これは今年4月下旬のSARS発生による
一時的混乱を除けば2月上旬の供給過剰時の水準に近い。なお6月上旬〜8月上
旬までは同385リンギ(11,550円)で安定して推移していた。

  こうしたことから、生産者団体は母豚のとうたによる生産調整を呼びかけてい
る。マレーシア畜産農家協会連合会(FLFAM)養豚部会によると、国内需要を満た
す適切な母豚数は13万5千頭程度であるのに対し、現在の母豚総数は16万頭以上
であり、これが価格低迷の主な要因であるとして、昨年末の供給過剰時と同様に
適正な母豚数までとうたする必要性を強調している。



集中養豚地域の選定、進まず

  同国では、集中養豚地域化(PFA)計画の一環として本年2月、環境対策規制
を満たすことができない農家の閉鎖や 2007年1月1日に完全実施を予定してい
る集中養豚地域の導入に向け環境条件を満たしている農家についても、順次閉鎖
・移転を進めること等を発表した。

  9月現在、ネグリ・センビラン州ポートディクソンのタナメラ地区とペラ州ビ
ドーのクアラ・メキム地区がPFAに選定されているものの、他の各州ではいまだ
具体的な候補地は決定していない。(「海外駐在員情報」通巻568号参照)

  PFA計画が州によりいまだ実施されていない影響で、多くの銀行が養豚農家に
対する新規融資を拒否するという事態が発生している。また、養豚農家がPFAに
移転する際に養豚場用地を自力で調達しなければならないため、零細農家にとっ
ては経営存続の大きなハードルとなっている。



環境汚染対策への要望

  PFA計画が推進されている背景には、近年高まる環境問題に対する意識の高ま
りが挙げられる。このほどセランゴール州およびクアラルンプール連邦特別区の
水源近くに新たに建設されたと畜場では、いったんは州政府及び環境省による操
業許可を得たとしながらも、その後周辺住民から感情的対立を発端とした水源汚
染に対する懸念の声が高まり、水質調査の結果次第では操業停止処分もあり得る
とされるなど、養豚を取り巻く環境は混迷している。なお、このと畜場はこのほ
ど施設の老朽化などにより閉鎖が決定されているクアラルンプール近郊シャー・
アラムと畜場の移転先とされている。



慎重なPFA計画の実施が求められる

  99年のウイルス性脳症発生以前の1998年現在、同国半島部で1,800戸存在した
養豚農家は現在800戸程度で、そのうち各州の定める環境対策規制を満たすこと
が出来るものは10%程度に過ぎないとされている。 計画によると、2003年以内
にこの規制を満たすことが出来なかった農場は閉鎖することとされており、90%
の農家が廃業を余儀なくされることとなる。ただし、このことに関して当事務所
からFLFAMに照会したところ、当局が2月以降情報を提供していないこともあり、
目標期日内の実現性に関しては疑問であると回答しており、業界は希望的観測に
基づき平静を保っているのが現状である。

  また同国政府は養豚農家に対し他の畜種など耕種を含めて、事業内容変更を援
助するとしながらもいまだ実効性は伴っていないとされている。

  FLFAM養豚部会は当該計画の性急な実施は、10億リンギ(300億円)に相当すると
も言われる同国養豚産業に与える打撃が大きいとして、当面は環境対策規制を満
たす農家の従来の立地での経営を2007年まで認めるよう同国農業省に要望してい
る。また、移転農家のための低利融資制度の実施や計画自体の2013年までの繰り
延べについても合わせて要望している。



 
【シンガポール駐在員 木田 秀一郎 9月24日発】 

元のページに戻る