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アジア市場の需要増は輸出増の期待 豪州連邦政府外務貿易省は7月、今後のアジア農産物市場の成長を分析した「2010年までのアジアの 農業食品需要動向」を発表した。これは、シリーズで実施されている農産物の国際化とアジア市場に関 するレポートの一環として発行されたものである。 ベール貿易相は発行に当たって、「今後のアジアの経済成長率の高低にかかわらず、食品や飲料に対 する需要は目覚ましい増加が期待できる」とともに、「多くの産品において、この需要の増加を輸出の 増加として実現することが期待できるため、豪州のような農産物輸出国にとって良いニュースである」 としている。 量だけでなく質的な変化もカギを握る要素 今回のレポートでは、分析に当たって次のようなカギを握る要素が挙げられている。 ・都市化や小売・フードサービス部門の近代化の進展−アジア経済における食品・飲用市場のシェアは 高まる。 ・人口の見通し−伸び率は減速するものの増加傾向は継続する。 ・人口構成の変化−65歳以上の人口の割合が増加するが、老齢者については消費量は少ないものの栄養 的な特性や品質に関心が高い。 ・都市化の加速−2000年現在でアジアには人口400万以上の都市が25あり、今後も大都市の規模は増大す ることが予想され、これら大都市が農産物の需要拡大の中心になる。 ・1人当たりの所得の成長が継続−90年代のアジア経済危機や日本経済の長期低迷からアジア全般で経済 が回復しつつあり、それに伴う1人当たりの所得の成長により、農産物需要の拡大が可能になる。 ・アジアの消費者の所得の成長−食品の安全性、完全性、品質、健康・栄養問題などに対する関心が高 まるとともに、供給チェーンがこれらの要求に応える期待も高まる。 ・消費者のライフスタイル(共働きなど)の変化−消費者の食品・飲料消費における利便性(中食など) に対する需要が高まる。 食肉、乳製品も期待できる産品 アジア全体の需要量の分析は、主要国の経済成長率の見込みに応じて、低位、中位、高位の3通りに 予測された。分析結果によれば、農産物全般にわたってアジアの需要は拡大する予測であり、食肉や乳 製品でもその需要は拡大するため、豪州にとってアジアは魅力的な市場であることが示されている。 食肉に対する需要は、基準年の1997年の7千9百万トンから2010年までに1億800万トン〜1億2,900 万トンの範囲に拡大し、2010年の純輸入量は、200万トン(低位予測)、600万トン(中位予測)、900万 トン(高位予測)と予測された。 牛乳・乳製品に対する需要は、同じく1億3,000万トンから1億7,100万トン〜2億700万トンの範囲に 拡大し、純輸入量は、700万トン(低位予測)、1,300万トン(中位予測)、2,100万トン(高位予測)と 予測されている。 WTOやFTAを通じた貿易の自由化を強調 ベール貿易相は、米国との自由貿易協定(FTA)合意後、豪州のFTAについては、アジアに傾注 する意向を示しており、現在、中国や東南アジア諸国とのFTA交渉に向けた取り組みが加速している。 同貿易相は今回のレポートの発表に当たっても、巨大かつ活力に満ちたアジアの農産物市場に対する豪 州の参入機会を獲得する最良の手段として、多国間貿易交渉やアジアとのFTA交渉を通じた貿易自由 化の重要性を改めて強調した。 なお、米国とのFTAについては、その関連法案が野党労働党からの修正案(医薬品関係)を織り込 んで8月13日に上院で可決しており、修正部分の取り扱いについて米国側の対応が懸念される面はある ものの、来年1月からの発効が日程に上った形となっている。
【シドニー駐在員 粂川 俊一 平成16年8月24日発】
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