ALIC/WEEKLY
年末の韓国での発生報告からアジア全域で猛威を振るい、さらに被害が広範囲に 拡大する様相を示し始めている高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は、鶏肉産業に おける被害にとどまらず、人への感染性をもつ変異型が発生する危険性も指摘され ている。東南アジア地域では旧正月に当たる1月22日以降、日本政府によるタイ産 鶏肉の一時輸入停止措置の発表を皮切りにタイをはじめ周辺各国での発生確認が報 告された。当地域で1月28日現在発生が報告されているのはベトナム、タイ、カン ボジア、インドネシア、ラオスとなっており、周辺地域では日本、韓国、台湾(た だし低病原性)、パキスタン、中国で発生、バングラデシュで発生の疑いが報じら れている。 各国の対応・状況 タイ: 農業協同組合省による感染地域は首都バンコクを含み、半島部を除く中部から 北部のラオス・ミャンマー国境に接する県までのほぼ全域にわたるとしている。 これ以外の周辺地域でも鶏から人への感染の疑いが次々に報告されている。政府 は27日の閣議で、被害を受けた養鶏農家に対し補助金を交付するとした。その内 容は採卵鶏(18週齢以上)1羽当たり40バーツ(112円:1バーツ=2.8円)、ブ ロイラー(22日齢以上)1羽当たり20バーツ(56円)となっている。 シンガポール: 同国農産食品・獣医庁は14日からタイにおける家きんコレラの発生・まん延を 理由に、鳥肉の一部を輸入停止していた。また23日からは缶詰・加熱加工品を除 く全ての鶏肉製品・生体鳥について同国からの輸入停止措置を採っている。また 、28日からは中国産についても同様の措置を採っている。2003年のタイ産冷凍鶏 肉輸入量は全体の14%となっており、全輸入の70%はブラジルおよびアメリカ産 である。 インドネシア: 25日の政府発表によりHPAIの発生が東ジャワおよびバリ島で確認されたとされ ているが、平成14年度現在の日本への家きん肉輸入は約2千トン、調製品は760 トン程度と少量である。また同国は当初、同病撲滅対策として大量処分を行わず 、国際的には撲滅困難とされるワクチン接種を行うとしていたが、その対策に疑 問の声が上がっていた。 マレーシア: 現在発生は報告されていないがタイからの感染の恐れのある家きんの密輸が問 題となっている。 フィリピン: 同じく発生は報告されておらず、順次発生国からの輸入停止措置を取っている。 バンコクで対策会議開催 2004年を食品安全年とし、東南アジア地域における食品流通拠点としての存在感 を示そうとしていたタイ政府は、発生当初のまん延防止体制の不備などが指摘され る中、28日緊急に、関係各国閣僚・国際機関担当者等を招へいし、HPAI対策会議を 開催した。今回のような前例のない広域同時多発的な疾病のまん延は、奇しくも各 国の疾病に対処する姿勢や問題点を浮き彫りにし、緊急に国家間連携による防疫協 力体制を確立する必要性を国際社会に強く印象づけた点でむしろ絶好の機会と言え、 今後、当該疾病に止まらない協力体制の構築が期待される。 この時期アジア地域は旧正月など鶏肉の高需要期の最中で、情報開示に際し様々 な思惑が交錯していたとはいえ、東南アジア各国の情報開示の引き金となった日本 市場とその政府の影響力は大きい。 この地域で個別FTA協議を多く抱える今、日本と当地域の協力体制確立に際し て、関係各国からは、わが国による経済連携協議にとどまらないイニシアティブの 発揮が期待されている。 【シンガポール駐在員 木田 秀一郎 平成16年1月29日発】
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