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豪州産牛肉輸入に関する問題 マレーシアでは牛肉消費量の約8割は海外からの輸入に依存しており、また、輸入量の約1割を豪州産牛肉が占め ている。ところが豪州から輸入される牛肉に関して現在、と畜方法に関する問題により混乱が生じており、従来同国 向けに輸出される牛肉を生産していたと畜場の多くがハラル(*)承認を取り消されている。 マレーシア国営通信によると、農業・農業産業相の7月15日の発表では、これらのと畜場で行われていると畜方法 がハラル承認に際し求められる作法と適合しないことが承認を取り消した理由とされている。 家畜のと畜方法に関する国際基準に関しては、今年5月にパリで開催された国際獣疫事務局(OIE)の総会で動 物愛護に関する新たなガイドラインとして「食肉に供される家畜のと畜方法に関するガイドライン」が採択されてい る。 ここでは、基本的にと畜対象動物に与える苦痛をいかに最小限に止めるか、ということが第一目標とされており、 この中で規定されるハラル仕向けのと畜方法は「あらかじめ(電気ショックや頭部打突で)気絶させず、頸部血管を 切断し放血による失血死を促すもの」とされている。 ただし、ハラル(ユダヤ教徒仕向けを含む)以外のと畜方法としては気絶処理を伴うものが一般的で、豪州第一次 産業・エネルギー省所属の豪州検疫検査局(AQIS)による1995年のと畜ガイドラインではハラル仕向けのと畜方 法として、「頭部への電気ショックによる気絶を併用した放血によると畜」が規定されている。なお、この際頸部下 方まで切開部を下ろすことは、それにより血管内に血栓が発生し、脊椎部動脈への急速な血流を生ずることにより、 脳へ血液が供給され一時的に蘇生する可能性が高まるので禁止されている。 同相は今後、AQISと協議を行い不適切な点の是正を要請する一方、代替調達先として、中国がハラル牛肉を生 産できるかどうか、検査員を候補となる幾つかのと畜場に派遣し、価格と併せ今後の輸入を検討中であるとしている。 牛肉生産振興の取り組み 獣医畜産局が公表した2002年の牛肉輸入量は9万3千トンで、国内生産量は1万9千トン程度となっており、輸入、 生産ともに大部分が半島部各州に集中している。国民一人当たり年間消費量は全体で5キログラムだが、うち半島部 は5.6キログラム、カリマンタン島のサバ、サラワク州はそれぞれ1.6、4.2キログラムとなっている。 国別の輸入量をみると、先としては大部分を占めるおよそ8割がインド産で、品目別では、そのほとんどが分割さ れた冷凍肉である。そのほかに約1割を豪州産牛肉が占めているほかはニュージーランド(NZ)産などとなってい る。 生体牛の輸入は2002年では全体で3万6千頭で、うち95%は豪州からの輸入となっており、近年の生体牛輸入は大 部分が豪州、NZ産である。一方、99年にはバリ牛などインドネシアからおよそ5千頭を輸入しており、翌2000年に はミャンマーから約4,500頭を輸入するなど、小規模ながら周辺各国からのまとまった輸入が見られるのが特徴であ る。 同国農業・農業産業省は従来から農産品輸入依存体質からの脱却を目指しており、国内生産の拡大や調達先の多様 化を推進している。この一環で油ヤシプランテーションと肉牛飼育の複合経営に関して、品種ごとの肥育適応性に関 する調査が行われており、2003年には中国から黄牛をおよそ800頭を導入し一定の成果を上げたとの報道も見られる。 *ハラル:イスラム教の教義にのっとり適切に処理された製品
【シンガポール駐在員 木田 秀一郎 平成17年7月21日発】
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