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官民一体で新たな制度を立ち上げ 豪州では、7月17日から豚肉生産者団体であるオーストラリア・ポーク・リミテッド(APL)をはじめ 官民一体で進めてきた豚の全国個体識別制度が開始された。この制度では、国内で取引される豚の出生、飼 養および移動などの情報が記載されたピッグ・パスという書類が添付される。この結果、外来疾病などの発 生時に早期の原因特定および適切な対策を講じられること、さらに、豚肉業界として食品の安全性を脅かす リスクに対し適切に対応する手段として大きく寄与すると期待されている。この制度は順次導入され、来年 1月1日までに完全実施されることとなっている。 豪州連邦政府は、今年1月、豚の全国個体識別制度の導入・整備資金として、3年間で総額120万豪ドル (1億6百万円:1豪ドル=88円)の財政支援を行うことを発表した。これを受けて、APLが取りまとめ 団体として豚肉関連業界、豪州連邦政府および州政府と連携し、新たな制度の導入について検討してきたも のである(「海外駐在員情報(平成18年2月14日号)」参照)。 豚にはピッグ・パスが添付 この個体識別制度では、国内で流通する豚にピッグ・パスという3枚複写の書類が添付されることとなる。 この書類は国内統一の様式で、5つのパートに分かれており、まず豚の取引が行われる際に家畜の所有者が 作成し、その後、流通段階に応じて輸送業者、荷受者が追加記入および署名をしていく。おもな記入事項は 次のとおり。 ・家畜の所有者、所在地、州政府が交付した生産者登録番号、家畜の取引頭数、品種、家畜番号(入れ墨な ど州で定めたもの)および家畜の状態(ケガや病気の状況)など ・家畜の飼養状況、動物用医薬品などの投与・休薬期間および輸送中の最後の給餌・給水時間など ・家畜の輸送開始日時、生体重量および輸送業者の登録番号など ・買受者の引取日時、引き取り時の家畜の状態など ピッグ・パスのうち、2枚ある複写は家畜の所有者および運搬業者が、残りの正式書類は買受者が、それ ぞれ2〜5年間(州により期間が異なる)保管することが義務付けられている。 なお、この制度は、国内で実施されている品質保証プログラムと一体的に運用されることとなっており、 豚の生産から、豚肉の加工、販売、輸出に至るまでの流通の各段階で求められる要件に対応したものとなっ ている。 今後の豚の取引きにはピッグ・パスが必須となる見込み この制度は、現段階で加入は義務付けられていない。しかしながら、生体豚の荷受者である家畜市場や と畜場などでは、今後、豚の受け入れに際してピッグ・パスの添付を要件化する動きがみられる。また、 豚肉の輸出に際して、豪州検疫検査局(AQIS)は、ピッグ・パスにあるような飼養管理者の誓約を要 件としていることから、今後は、ピッグ・パスが添付されていない場合、実質的に豚の取引きが出来なく なる状況になるとみられている。 一部関係者からは制度に対する疑問の声も この制度は、官民一体となって導入され、その必要性について業界の理解は得られている。しかしなが ら、一部の関係者からは、制度導入に当たり発生する追加経費を誰が負担するのか、また、豪州への輸入 豚肉に同様の基準を適用しないのかといった疑問の声も上がっている。 【シドニー駐在員 井田 俊二 平成18年8月3日発】
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