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2006年の10大ニュース 《シンガポール駐在員事務所》       斎藤 孝宏  ・ 林 義隆


1.ベトナム、10年越しでWTO加盟へ

  ベトナム政府は95年以降、世界貿易機関(WTO)への加盟を目指してきたが、国内法の整備や、重要課
 題となっていた米国との調整などを経て、早ければ年内にも加盟できる見通しとなった。同国は経済成長を
 続けてきたが、11月7日、WTO一般理事会において150番目の加盟国として承認された。同国は86年に始
 めた経済開放政策であるドイモイ運動以来、大きな経済成長を続けてきたが、WTO加盟により一層の経済
 発展が期待されている。一方、加盟の影では国営企業や農業などの大幅な合理化は避けられないと見込まれ
 ており、畜産物の貿易にも影響するものと見込まれる。


2.家畜衛生信託基金創設に合意(アセアン)

  シンガポールにおいて11月13〜17日、アセアン各国と日中韓3カ国(アセアン+3)による農林水産分野
 における協力体制の確立を目的とした会議が開催された。中でも、11月16日に開催されたアセアン農相会議
 では、2004年11月のビエンチャン行動計画(VAP)および前回の第11回アセアンサミットの合意に基づく
 地域における戦略的家畜疾病対策計画として、アセアン家畜衛生信託基金(AAHTF)の創設が決定され
 た。


3.再発・継続するアセアンのAI

  2003年後半にベトナムで最初に発生したアセアン地域の高病原性鳥インフルエンザ(AI)は、一向に終
 息せず、2006年12月中旬までに清浄化宣言を行った国を含め、アセアン諸国10カ国のうち7カ国において感
 染が確認されている。そのうち4カ国では、いったん終息した後に再発しており、ウイルスがこの地域に定
 着化したのではないかと懸念されている。インドネシアでは継続して発生しており、死亡者数がこれまで最
 高だったベトナムを抜き、AIの人への感染が拡大している。


4.3IMPでハラル事業を推進(マレーシア)

  マレーシア政府は8月18日、2006年から2020年に至る第三次産業基本計画(3IMP)を発表した。3I
 MPは、同国を2020年までに先進国に仲間入りをさせるとする2020年ビジョンにリンクさせた最終段階とさ
 れている。製造業、サービス業および農業を三本柱とし、この期間の年平均の経済成長率を6.3%、そのう
 ち農水産業の成長率を5.2%とする目標を設定している。中でもハラル事業を振興するとし、原料の調達に
 関しては農業の大規模化と効率化などを進めるとしている。


5.原油高などで酪農家戸数が15%減少(タイ)

  タイ農業協同組合省(MOAC)によれば、生産コストの上昇により乳牛を手放す酪農家が増加しており、
 その数は全体の15%に当たる3千戸に上っているとしている。これは、原油価格が高騰し、酪農家の飼料生
 産費や輸送費が上昇している一方、生乳の販売価格が98年以来1キログラム当たり12.5バーツ(39円:1バ
 ーツ=3.1円)に据え置かれたままであるためとされている。政府は、将来の乳製品輸入の自由化を控え、
 生乳の低コスト生産を研究するとし、また6月には余乳などの対策として粉乳工場の建設を閣議決定した。


6.意欲的な豚の増頭計画に取り組むベトナム

  ベトナム農業農村開発省(MARD)は、同国における豚飼養頭数の増加に取り組むとともに、豚肉輸出
 量の増加を目標とすることを表明した。同国では現在、推定で約2,800万頭の豚が飼養されているが、2010
 年の飼養頭数目標を現在より約18%増の3,300万頭に置くとしている。また、養豚場設備の近代化と新しい
 人工授精センターの設置などを計画するとともに、養豚経営の規模拡大を進め、同国の大規模経営における
 豚の飼養頭数割合を、現在の25%から40%程度まで増加させるとしている。


7.AI対策費は年間2億5千万ドルと試算(インドネシア)

  インドネシア政府は8月下旬、2007年におけるAI対策予算案について、前年並みの約5,400万ドル(約
 63億2千万円、1ドル=117円)とすることを表明した。

  同国政府は、AI撲滅に要する費用について、年間約2億5千万ドル(約292億5千万円)が必要である
 と試算しているものの、このうち5千万ドル(58億5千万円)程度の負担能力しかないとしており、資金
 および技術面での国際援助を求めている。


8.肉牛百万頭計画を中止(タイ)

  タイ政府は11月下旬、これまで進めてきた「肉牛百万頭計画」を中止すると発表した。この計画は、農
 家が肥育素牛などを借入れて飼養し、肥育牛や子牛を政府が設立した機関が購入することにより、農家の
 所得を確保する計画であったが、素牛の確保や農家の飼養方法の指導など、多くの問題が生じていた。タ
 クシン前政権の下で開始されたが、今回のクーデターによる政権の交代に伴い見直しが行われた結果、計
 画の中止が決定された。一方、同国における牛の飼養頭数はいったんは減少したものの、99年以降、回復
 傾向で推移している。


9.台風被害により鶏肉輸入枠を拡大(フィリピン)

  9月下旬にフィリピンで発生した大型台風(台風15号)は、ルソン島を中心に大雨や洪水などによる大
 きな被害をもたらした。同国の農業が受けた被害も大きく、被害総額は約19億ペソ(約38億円、1ペソ=
 2円)と推定されている。このうち、ブロイラーなど家きん部門の被害額は、約2億5,000万ペソ(約5億
 円)とされており、養鶏場の修復にも数カ月が必要との見方も出ている。

  このため、同国政府は国内の鶏肉不足に対応するために、輸入業者に対し追加輸入を促すとともに、鶏
 肉輸入枠については10月に約3,000トン、11月に2,000トンを追加発給した。


10.鳥インフルエンザ防疫対策の強化(シンガポール)

  シンガポールでは、過去に急性重症呼吸器症候群(サーズ)の感染拡大により同国経済などに多大な影
 響を受けた経緯があることから、AIの人への感染に対しての危機意識が強い。シンガポール政府は専用
 のウェブサイトを設置して情報提供などを行っているところであるが、さらにAIへの対応策をまとめた
 冊子を今月末から100万世帯に配布する。すべての民族に対応するため、英語、中国語、マレー語およびタ
 ミル語の4カ国語で情報を提供している。




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