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ジョハンズ米農務長官は11月2日、ラスベガスで開催された全米最大の酪農家団体である全国生乳生産者連 盟(NMPF)の年次総会において、2007年農業法制定に向けた検討課題および主要酪農政策における一部制 度の検討状況などについて演説を行った。米国内では関係者による同法に関する議論が加速しており、また、 同総会での農務長官による演説は12年ぶりということもあり、その発言に注目が集まった。 次期農業法における国内支持に関する3つの課題を強調 同長官は、農業政策全般について、「2007年農業法は、米国の農業政策を新たに考察するため重要な機会で ある。農業は、米国にとって不可欠なものであり、また、多くのリスクをはらんだビジネスでもある。私は、 米国の生産者を支えるため、可能な限りのことをするつもりであるが、われわれの国内支持については、@公 平性(equitable)、A当然性(predictable)、B疑念が及ばない(beyond challenge)−ことが確実となる ことを約束する」と述べた。 「公平性」については、現行の農業支持プログラムでは、5品目(トウモロコシ、大豆、小麦、米、綿花) の農作物に対する補助金支出が全体の90%以上を占めており、より平等な支持の検討が重要であるとしている。 また、「当然性」については、現在、全農家収入の約85%が農業以外の分野に依存していることなどから、昨 年の農業法フォーラムにおいて、農業関係者から、農場規模、作物生産高、農家収入などに関係なく生産者を 支えることとなる農村開発プログラムに対する一致した支持があったことによるものとしている。さらに、 「疑念が及ばない」については、ブラジルの申し立てによるWTOパネルで、米国の主要補助金プログラムが 協定に違反すると裁定される一方で、農産物の生産性は毎年拡大しているため、市場アクセスの拡大がますま す重要となっていることから、WTO紛争を回避し、公平な競争の場を確保する政策の確立が必要であるとし ている。 FMMO制度におけるクラス別価格の算定方法の検討に言及 酪農政策に関しては、主要な国内措置の一つである、連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO) 制度におけるクラスT(飲用乳向け)およびクラスU(アイスクリーム・ヨーグルト向け)の価格算定方法の 見直しについて言及した。 本制度に関しては本年6月、米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)が、乳製品の製造コス トの上昇などを踏まえ、クラスV(チーズ・ホエイ向け)およびクラスW(バター・粉乳向け)の生乳価格の 算定方法を見直し、最低取引価格を引き下げる規則の変更を提案していた。このため、同変更により、クラス TおよびUの取引価格にも影響が及ぶことを懸念したNMPFは同10月、同クラスの価格算定方法を見直すよ う提案を行っていた(海外駐在員情報通巻740号参照)。同長官は、本件について、「NMPFが提案したク ラスTおよびUの価格水準見直しに関する問題については、その重大さを十分に認識しており、また、その内 容を正当に評価している。われわれは現在、この提案による酪農産業における影響について綿密に分析してい ることをお知らせする」と述べた。 また、クラスVおよびWの価格算定方法見直しに関する乳製品の製造コストの問題については、9月に実施 したコーネル大学の公聴会における記録を分析しているところであり、この問題に対する決定を間もなく公表 する予定であるとした。さらに、これら規則の見直しの過程においては、透明性の確保が重要であると強調し、 その取り組みの結果として、本年末には、クラスVおよびWの価格算定方法見直しに関する意見交換会を開催 する予定であるとした。 CWTなど生産者主体の取り組みを評価 また、同長官は、生乳生産者が自らの拠出金により生乳生産の削減を行い、生乳価格の支持を目的とする酪 農協共同事業(CWT)プログラムや、生産者からの賦課金により牛乳・乳製品の販売促進および調査研究を 目的とする全米酪農振興・調査研究プログラムを称賛する発言を行った。一方、加工原料乳価格支持制度や生 乳所得損失契約プログラム(MILC)などほかの主要酪農制度については、今回の演説の中でほとんど言及 しておらず、来年初めにも次期農業法に関する政府案の公表が予定される中、今後の酪農制度をめぐる議論の 行方にはさらなる注視が必要と考えられる。 【ワシントン駐在員 唐澤 哲也 平成18年11月15日発】
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