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欧州委員会は3月29日、生産者に対する直接支払いの受給要件(クロス・コンプライアンス)に関する改善・簡
素化の提案を行った。
クロス・コンプライアンスとは
EUでは、2003年の共通農業政策(CAP)改革を経て、2005年より、CAPにおける生産者への直接支払いの
制度は、それまでの品目ごとの生産量に応じた直接支払いから、その一部は残しつつも、生産とは切り離された生
産者を単位とした直接支払い(デカップリング)へと移行した。この直接支払いを受給するためには、クロス・コ
ンプライアンスと呼ばれる生産活動の条件を満たすことが要件となっている。
このクロス・コンプライアンスの順守は、@生産者にとって持続的な生産活動が期待できること、ACAPによ
る生産活動を消費者や納税者の要望する方向に適合させることができるという二つの大きな目的からなる。
そして、この条件は、@環境保全、公衆衛生、動植物衛生、動物福祉の分野に関する19の法令の順守と、A受給
対象農地の適正管理の大きく二つに分かれる。
クロス・コンプライアンスにかかる現地調査の実施状況
2005年には、クロス・コンプライアンスの順守状況の確認のため、全生産者の4.92%を対象に240,898件の現地
調査が実施されている。このうち、調査対象となった生産者の11.9%で違反が確認され直接支払いの支給が減額さ
れている。
クロス・コンプライアンスの順守違反で最も多いのが牛の個体識別のための登録に関するもので、次いで、農地
の適正管理や窒素指令に関するものが続く。
クロス・コンプライアンスの概念を変更しない範囲での改善・簡素化
今回の提案は、現在、欧州委員会が進めるCAPの簡素化作業の一環であり、これはあくまで制度の技術的な改
正であり、制度内容の見直しを伴うものではない。
このクロス・コンプライアンスにかかる提案についても、具体的には、以下のような行政によるクロス・コンプ
ライアンスの調査方法や条件を満たさない生産者に対する支給額の削減方法などの改正に関するものが主であり、
制度の目的や内容を見直すものではない。
・クロス・コンプライアンス順守の管理責任を負う加盟国の主管当局は直接支払いの減額に至らない軽微な違反に
ついて、再検査を実施する必要はない。
・違反による直接支払いの削減額が50ユーロに満たない場合は、これを削減しない。ただし、警告文書を発出する
こととする。
なお、先般公表された2005年の直接支払いの支給状況に関する結果によれば、受給者の8割以上が受給額5千ユ
ーロ以下となっており、仮にこれらの者が違反により1%の削減率が課せられたとしても減額はされないことと
なる。
・クロス・コンプライアンスの順守状況確認のための調査対象となる生産者の割合を、効率的な調査実施のために
最低の1%とする。
・加盟国の主管当局は、年間のうち順守項目に関する調査の最適時期を決定する。
・危機管理に関係しない調査の場合には、調査対象生産者に対し、調査の14日前に通告する。ただし、飼料や食品
の安全、動物衛生や個体登録に関する調査の場合には、従前通り調査にかかる事前通告は行わない。
・調査結果については調査後3カ月以内に生産者へ報告しなければならない。
・欧州委員会は、加盟国が調査対象から求められた情報について明らかにする。
・デカップリングの仕組みについて、基準年(2000-2002年)の農地面積と直接支払い受給実績を算定要素とする
単一支払制度(Single Payment Scheme:SPS)を採用する加盟国における、受給資格を得るために受給前の
最低10カ月は対象農地を所有しなければならない、いわゆる「10カ月ルール」についてこれを簡素化する。
(注:EU27カ国のうち、EU15と2004年に加盟したマルタとスロベニアの計17カ国が採用。)
・デカップリングについて、単純にEU加盟時の農地面積に、各国が定める面積当たりの単価を乗じて直接支払
いの額を算定する単一農地面積支払制度(Single Area Payment Scheme:SAPS)を採用する加盟国におい
て、2009年よりクロス・コンプライアンスの要件に「環境保全、公衆衛生、動植物衛生、動物福祉の分野に関
する19の法令の順守」が加わる。それまでの間は、クロス・コンプライアンスの要件は「農地の適正管理」の
みである。
(注:2004年5月に加盟した10カ国のうちマルタとスロベニアを除く8カ国と、2007年に加盟したブルガリア、
ルーマニアの計10カ国が採用。)
【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成19年4月3日発】
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