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「肉牛百万頭計画」に替わる新たな肉用牛生産振興策を承認 タイ暫定内閣は8月14日、「肉牛百万頭計画」の廃止と、これに替わる新たな肉用牛・水牛生産振興策を承 認した。併せて、「肉牛百万頭計画」の実施団体として設立された特別目的会社SPV(Special Purpose Vehicle)の解散を採決した。 新たな生産振興策では、2010年までを実施期間として、農家に対して、農業・農業協同組合銀行(BAAC) が肉牛や水牛の導入資金を直接融資する。また、融資の資金として、SPVの解散によって生じた資金をBAA Cに移管することとしている。 なお、「肉牛百万頭計画」の参加農家については、農業・協同組合省(MOAC)畜産開発局とBAACが、 牛の売却による契約満了まで対応することとしている。 「肉牛百万頭計画」との違いとして、以下が挙げられる。 (1)農家が家畜の所有権を得られること (2)融資であるため、これまで農家が支払っていたSPVへの管理手数料の支払い義務がないこと (3)農家のみではなく、その農家の所属する組織との連携を図ること 既に中止状態だった「肉牛百万頭計画」 「肉牛百万頭計画」は、クーデターによって追放されたタクシン前政権によって、2005年に開始された。こ の計画は、SPVが農家に肥育素牛を貸し付け、肥育牛や子牛を買い取るというもので、2008年までの3年間 に100万頭の牛を貸し付けることを目標としていた。「肉牛飼育百万世帯計画」と呼称を変えながら実施されて いたが、貸し付け実績の不振から、昨年11月に中止が発表されていた(海外駐在員情報通巻第748号参照)。 政府は、「肉牛百万頭計画」の廃止の理由として、目標の100万頭に対してこれまでに約1万戸の農家に対す る約2万頭の貸し付け実績しかなく、目標の達成が見込めないことを挙げている。これは、雌牛の貸し付けを 希望する農家に雄牛を貸し付ける例のように、必ずしも農家のニーズに応えられなかったことが大きな要因と されている。また、SPVは、肉牛の販売計画や農家支援のためのデータベースの作成といった目標が未達成 であることも非難されている。 併せて肉用牛の品質改善を実施 MOACは、この肉用牛生産振興政策に併せて、肉用牛品質改善計画の実施に約7千5百万バーツ(約2億 6千万円:1バーツ=3.5円)を投ずることとした。 これは、2005年1月発効した豪州とのFTAにより、2020年に牛肉の関税が0%になるのに備えて、豪州産 牛肉に対抗できる低コストで高品質の牛肉生産を推進することを目的としている。 計画では、タイ肉牛協会を実施主体として、@肥育牛の生産構造およびトレーサビリティの改善、A精液生 産のためのカンペンセン牛の種雄牛の選択と優良種雄牛による国内肉用牛の遺伝的形質の改善、B飼養管理技 術研修、Cカンペンセン牛中央市場の設置−を行うこととしている。 ※カンペンセン(Kamphaengsaen)牛:タイの在来種、ブラーマン種、シャロレー種の三元交配による交雑種。 タイのカセサート大学が中心となって作出された。タイの気候に順応しており、かつ、増体にも優れている (「畜産の情報」2006年2月号参照)。【シンガポール駐在員 佐々木 勝憲 平成19年8月23日発】
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