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米国上院で新農業法の審議が遅れ、年内の成立は困難に


 米国では、2002年農業法の後継となる新農業法の制定に向け、上院での議論が続いている。下院農業法案は
7月27日に本会議を通過したのに対し、上院農業法案は10月25日に農業委員会の承認を得たものの、多くの修
正法案が出されたまま本会議の審議に入ることができずに、感謝祭休会明けの12月を迎えることとなった。休
会明けの議会では2008年度歳出法案の審議が優先されることから、年内に上院本会議を通過することは困難な
情勢であり、両院協議会を経て策定される包括農業法案が最終的に両院の承認を得られるのは順調にいっても
年明けになるとの見通しが広がっている。


上院農業委員会は主要作物の収入変動に応じた支払いの新設を含む法案を承認

 上院農業委員会は10月25日から26日にかけてハーキン委員長提出の2007年農業法案(食料・エネルギー安全
保障法案:S.2302)を審議し、一部修正を行った上でこれを承認した。委員会の開催がこの時期までずれ込ん
だのは、既存の作物補助金制度の維持を主張する南部選出議員、作物補助金を削減して環境保全事業やバイオ
燃料支援の拡充を主張するコーンベルト選出議員、天災による農畜産物被害への補償の恒久化を主張する平原
州選出議員などの利害調整に時間を要したためである。

 上院農業委員会で承認された法案は、主要作物への補助制度の根幹を維持した上で小麦や大豆などの目標価
格(価格変動対応支払いの発動基準価格)を引き上げる一方、これと平行して、新たに作物収入の変動に応じ
た補助制度(単位面積当たり予想収入を下回った場合に不足分の90%を支払い)を新設し、農業者がどちらか
を選択できるようにしていることが特徴である。

 また、畜産分野について見ると、パッカーによる家畜の自己保有を禁止する規定、州政府が衛生検査した食
肉の全国流通を条件付きで認める規定、MILC(生乳所得損失契約事業:飲用乳価を発動基準とする不足払
い)の1戸当たり補助上限(240万ポンド(1,089トン)→415万ポンド(1,882トン))と補助率(34%→45%)
を引き上げる規定などが盛り込まれている。


コナー農務長官代理は上院農業法案を強く批判

 上院農業委員会を通過した農業法案については、概して作物団体が好意的に評価する一方で、全米肉用牛生
産者牛肉協会や全米豚肉生産者協議会を始めとする主要畜産団体は、パッカーによる家畜の自己保有禁止規定
が盛り込まれたことに強く反発し、本会議でこれを修正するよう求めている。

 また、コナー農務長官代理は上院本会議での審議に先立って11月5日に記者会見を行い、上院農業委員会が
承認した農業法案に対する政府としての極めて強い懸念を表明している。同長官代理は、この法案について、
貿易歪曲的な支持の水準を引き上げて欠陥のあるセーフティーネットを継続するなど真の改革が全く行われて
いないとするとともに、財政面で見ても370億ドル(3兆9,960億円)の国民負担を招くものであると批判して
いる。その上で、本会議に提出される農業法案および関連税制法案について大統領に拒否権を発動するよう進
言するとし、本会議での議論に当たってはこれらの委員会提出法案の問題点を十分に考慮に入れて対応するよ
う議員に求めたいとしている。


上院本会議での修正法案の扱いをめぐる与野党協議が難航

 米国の上院での法案審議は議事運営委員会の決議を経ずに行われるため、審議時間の長さや修正提案の本数
と内容を事前に定めておくことができない。このため、農業法案のように多くの修正提案が見込まれる場合に
は、上院の与野党の執行部と関係議員が事前に協議を行い、修正提案の本数と内容を絞り込むことが必要とな
る。

 今回の農業法案の本会議審議に当たっては、農業委員会所属のグラスリー議員が農業補助金の受給上限額の
引き下げ提案を本会議で議論する意向を示すなど、大きな論点となる修正提案の扱いが注目されていた。その
一方で、相続税率の暫定的引き下げや不法移民への運転免許交付の停止など農業法との関連が薄い提案が出さ
れるなど、修正提案の総数は200本以上に上っていた。

 このような中、議会野党である共和党のマッコーネル院内総務は、上院の慣習に従って制限を設けることな
く十分な審議を行うべきとの立場を崩さなかった。このため、民主党のリード院内総務は、審議時間を30時間
に制限する動議を本会議に提出したが、11月16日に行われた採決の結果、可決に必要な60票に5票足りずにこ
の動議は否決された。


年内の農業法の成立は極めて困難な情勢に

 米国議会は、感謝祭休会明けの12月初めに再開され、クリスマス休暇前まで3週間にわたって審議が行われ
る。しかし、2008年度歳出法案など審議を優先すべき案件に加え、再生可能燃料の最低使用義務量(再生燃料
基準:RFS)引き上げを含む包括エネルギー法案についても年内に審議される可能性が高まっており、農業
法が年内に上院本会議を通過することは困難な情勢となっている。

 仮に、与野党の協議が整って年内に農業法が上院を通過したとしても、大統領の拒否権発動による共和党へ
の批判の高まりを視野に入れた政治的駆け引きから、両院協議会における包括農業法案の策定までにはうよ曲
折が予想される。このため、最終的に両院の承認を得た法案が両院で再可決されて大統領に送られるのは、順
調にいっても年明けになるとの見通しが広がっている。

 なお、下院共和党の農業委員会野党筆頭であるグッドラット下院議員らは、現行農業法を1年延長する法案
を提出している。





【ワシントン駐在員 郷 達也 平成19年11月29日発】



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