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フィッシャー・ボエル委員、CAPの見直しの方向性について講演 欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は1月4日、イギリスで開催されたオックス フォード農業会議において「EU農業の将来像とイギリス農業者にとっての好機」との題目で講演を行った。 この中で同委員は、2003年の共通農業政策(CAP)改革を経て実施している現行制度については、2008/09 年に「ヘルスチェック(Health Check)」によりこれらが適切に機能しているかを検証するとともに、CAP予 算も含めたEU予算を見直すことにより、2013年以降のCAPのあるべき姿を検討していくとしている。 そして、それらを実施する上で、考慮すべき将来のEU農業の発展のために重要なポイントとして以下の3点 を挙げている。 EU農業の競争力強化を念頭に置いたCAPの見直しの実施 まず、将来のEU農業の発展のために最も重要な点として、EU域内および国際市場において消費者の信頼を 勝ち取れる競争力の強化を挙げている。 現在行われている世界貿易機関(WTO)農業交渉については、EUとしてその進展に努力していくとし、そ れに伴う国際化の進展に対し、生産者の国際競争力の強化と、地理的表示や動物福祉などによるEU農産物の域 内・外での消費者の信頼獲得の重要性について述べた。 一方で、現行のCAPについては、依然、競争を阻害する制度が残っているとし、現在進行中の関係法令の統 合や事務手続きの簡素化などの技術的な簡素化作業を引き続き進めるとした。また、すでにWTO農業交渉にお いて段階的な廃止を約束した輸出補助金に加え、市場介入、生産枠(クオータ)などは、2013年以降、その存続 を疑問視するとして廃止を前提とした検討をすべきとの見解を示した。特に、2003年のCAP改革により、2014 /15年度まで継続することが決定している生乳クオータについては、今回の講演ではこれを「2015年での廃止を 合図する必要がある」と、従来より踏み込んだ発言となっている。 また、直接支払い制度については、その大部分が生産と切り離された生産者を単位とした直接支払い(デカッ プリング)へと移行しているが、一部の加盟国では生産とリンクした直接支払いが残るなど、例外も存在してい る。この点については、数年以内に、全加盟国のすべての分野の生産者を対象としたデカップリングへと移行す るべきであるとの考えを示した。 環境対策・農村開発の強化 次に重要な点として、環境対策および農村開発の強化を挙げている。 現在、EUの生産者は、クロス・コンプライアンスと呼ばれる生産活動に関する一定の要件を満たすことが直 接支払いを受給するための要件とされており、この中で環境保全に関する規則の順守も求められている。このこ とは、現行CAPにおける大きな進展としながらも、生産者団体からの要望などを踏まえ、制度の趣旨を変えな い範囲で簡素化などを検討していきたいとした。 また、地域の雇用や活性化の観点から農村開発は重要であり、今後も重点的に実施すべき施策であるとした上 で、予算の不足を問題点として指摘した。2013年までの農村開発予算については、当初の欧州委員会による提案 額よりも200億ユーロ(3兆1,000億円:1ユーロ=155円)も下回っており、これに加えて、新たにブルガリア およびルーマニアがEU加盟したことにより、必要な予算が確保できていないとしている。このため、生産者へ の直接支払いや市場介入などの価格支持対策の予算から農村開発予算への振り替え(モジュレーション)につい て、その割合を現行の水準より義務的にさらに引き上げるべきとの見解を示した。 バイオマス燃料生産の促進 3点目として、競争力強化および持続可能な環境作りとの観点から、特にバイオマス燃料生産の促進を挙げた。 EUでは、すでにエネルギー穀物の生産に対する補助や農村開発を通じてバイオマス燃料の生産を後押しして おり、2005年のバイオマス燃料の生産は前年比で60%以上増加するなど成果を上げている。また、2006年末には、 エネルギー穀物の生産に対する補助を全加盟国で実施し、補助対象面積の拡大を決定するなど、その取り組みを さらに強化することとしている。 今後は、再生利用エネルギーの生産拡大のための指針を策定し、さらにこの分野の取り組みを後押しするが、 これと併せて、バイオマス燃料利用における優遇税制の検討など加盟国レベルでの取り組み強化を訴えた。 【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成19年1月10日発】
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