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欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は7月16日、EUをはじめ世界的に厳し い穀物需給の現状にかんがみ、2007年秋および2008年春に播種する耕地について、その義務的休耕率をゼロ とする提案を公表した。 厳しい穀物の需給状況 EUにおける2006年の穀物収穫量は2億6,550万トンと予想を下回った。また、2007年前半の大麦および 小麦の収穫量はスペインを除き前年並みで、さらに西ヨーロッパを中心に、多雨による収穫の遅れなどの被 害も見られるなど、供給面で厳しい状況が続いている。一方、穀物の介入買入在庫もハンガリーのトウモロ コシを中心に、2006年7月時点で1,400万トンあったものが、好調な需要を背景に250万トンにまで落ち込ん でいる。 世界的に見ても、2007/08年の穀物在庫は、輸出主要5カ国でわずか3,100万トンになるなど、過去28年間 で最低の1億1,100万トンまで落ち込むと予想されている。また、現在の世界的な穀物価格の高騰も、悪天候 による主要生産国での不作とバイオエタノール生産向けのトウモロコシなどの需要の増加が相まって、当面 続くと見込まれている。 このような状況の中、一部の加盟国や生産者団体からは義務的休耕地を食用および飼料用穀物の生産に利 用すべきとの声が上がっていた(海外駐在員情報775号参照)。 EUにおける休耕(セットアサイド)制度の概要 穀物生産を抑制するための休耕(セットアサイド)制度については、自主的な取り組みとして88年に導入 され、その後92年からは直接支払い受給のための要件として、一定割合の休耕が義務付けられた。2003年か らは1ヘクタールの耕地に休耕地を組み込むことにより生産者を単位とした直接支払い(デカップリング) の受給資格を得ることとなっている。なお、義務的休耕率については、毎年決定されることとなっているが、 99年以降、簡素化のために原則10%に固定されている。 また、この休耕地においては、少なくとも毎年1月15日から8月31日の間は、エネルギー穀物などの許可 された作物を除き、食用および飼料用の作物栽培を行うことができない。 現在、EUでは380万ヘクタールの農地で、この義務的休耕が実施されている。 穀物の需給改善を期待 欧州委員会の試算では、今回の義務的休耕率ゼロが実行されれば、1,000〜1,700万トンの穀物増産が期待 されるとしており、このことは家畜飼料も含めた穀物の供給量の増加につながり、EUにおける厳しい穀物 需給が改善されるものと期待される。ただし、今回の提案は、生産者に対し従来の休耕地における穀物栽培 を強要するものではなく、自主的な休耕を選択できるようにしている。 なお、正式な政策決定手続きを経ていないこのタイミングでの公表は、生産者が9月以降の耕地の利用計 画を立てる前に、出来る限り早く制度変更の方向性を伝えておく必要があるとの判断がある。 同委員によれば、今回の提案は、あくまで2007年秋および2008年春の播種分のみへの適用であり、2008年 に予定されるヘルスチェック(制度検証)における義務的休耕のあり方も含めた穀物政策の見直しの結果を 予断させるものではないとしている。
【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成19年7月18日発】
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