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米下院で次期農業法案における酪農・畜産関連規定を審議


  本年9月末に2002年農業法の失効を控え、米国下院では5月下旬から次期農業法案についての審議が始まって
いる。5月24日に開催された下院農業委員会畜産物小委員会では、酪農および畜産政策に関する法案審議が行わ
れた。



現行の酪農政策の大枠を維持しつつ運用を改善する法案

  米国の酪農政策は、@乳製品の買い上げを行う加工原料乳価格支持制度、A生乳の用途別に最低支払乳価を定
める連邦ミルクマーケティングオーダー制度(FMMO)、B飲用向け生乳価格の下落時に発動される生乳所得
損失契約プログラム(MILC)の三つが根幹となっており、これらの制度の動向が次期農業法における焦点と
なっている。また、畜産分野においては、大手パッカーによる肉畜の自己所有や契約出荷の増加に対し、畜産農
家の競争条件確保の観点から何らかの規制を導入することの是非が議論されている(海外駐在員情報平成19年5
月1日号(通巻765号)参照)。

  今回の下院案では、@政府による乳製品の買い上げを延長するとともに、政府が生乳ではなく乳製品(チェダ
ーチーズ、バターおよび脱脂粉乳)について目標価格を定めるよう制度を変更すること、AFMMOにおける価
格算定などの規則変更手続きの迅速化を図る規定を設けることに加え、これまでFMMOの例外として暫定的に
認められてきた乳製品向け生乳の長期契約出荷を恒久的に認めることなどが承認された。

  また、BMILCの扱いについては、24日の小委員会が開催された段階では2007年追加歳出法案が可決されて
おらず、財源が確保されていなかったため、議論は下院農業委員会の全体会合に先送りされた。(その後、25日
に2007年追加歳出法案が成立したことにより、2008年度以降もMILCの財源は確保されることが決定している。)

  なお、畜産分野の公正競争確保に関しては、家畜の契約出荷で問題が生じた際に調停を利用する上での要件を
明確化することが承認されたが、契約取引における取引価格の報告義務化などは盛り込まれなかった。



酪農団体は乳製品の価格支持の枠組み維持などが含まれたことに一定の評価

  今回の下院農業委員会畜産物小委員会の法案検討内容について、米国最大の酪農団体である全国生乳生産者協
議会(NMPF)は、第一段階では、全体として好ましいものであると評価している。

  特に、酪農家にとっての基本的なセーフティーネットである加工原料乳価格支持について制度変更を行った上
で枠組みを維持するとしたこと、乳製品輸出奨励計画(DEIP)を延長するとしたこと、FMMOの規則変更
に当たってのヒアリング手続きを迅速化する規定を設けたことなどは、NMPFのかねてからの主張を受け入れ
たものであり、好意的に受け止めている。また、MILCに代えて酪農家への直接支払いを導入するNMPFの
提案について、ボスウェル小委員長をはじめ多くの議員から力強い支持の発言があったことを歓迎するとしてい
る。

  その一方で、輸入乳製品からの消費拡大に資するチェックオフを徴収するための乳製品輸入確認規定が盛り込
まれなかったこと、生乳の長期契約出荷を認める規定が次期農業法の有効期限を越えた恒久的なものとされてい
ることについては懸念を示し、農業委員会の全体会合の場で修正を求めていく考えを明らかにしている。



乳業団体は本法案が米国の酪農・乳業政策の近代化に向けて進展をもたらすとする

  これに対し、米国最大の乳業者団体である国際乳製品協会(IDFA)は、下院農業委員会畜産物小委員会で
承認された法案は、米国の酪農・乳業政策の近代化に向けて多くの進展をもたらすものであるとして評価し、会
員にこの法案を支持するよう呼びかけている。

  特に、IDFAは、生乳の契約取引に関するパイロット事業を恒久化する案について、酪農家と乳業者の双方
に長期的な財務基盤の安定をもたらすとして極めて高く評価しており、この規定が次期農業法に含まれるよう引
き続き努力するとしている。一方で、これまで契約取引の恒久化を支持していたNMPFが議論の前日になって
これに強く反対する書簡を小委員会に発出したことを明らかにし、このような動きをけん制している。

  このほか、乳製品輸入確認規定を設けずに輸入乳製品からのチェックオフ徴収を回避するとしたこと、DEI
Pを延長するとしたこと、加工原料乳価格支持を維持するとしたことなどについては、これを支持するとしてい
る。

  その一方で、カリフォルニア選出の議員から、同州で適用されている高い無脂固形分基準を全国に適用するこ
とを検討する提案がなされたことに対しては反対の立場を表明するとともに、2007年度追加歳出法案の通過に伴
ってMILCの財源が確保されたことについては下院農業委員会の全体会合での議論になるとしている。



農業法の審議スケジュールは遅れ気味

  農業法のような重要法案は、一般的に、上院および下院がそれぞれ独自の法案を議決した後、両院協議会で法
案内容のすり合わせが行われる。その後、両院協議会で修正された法案は再度上下両院の本会議で議決され、こ
れに大統領が署名して初めて法律として成立することとなる。

  今回、下院農業委員会のピーターソン委員長は、6つの小委員会で法案の修正作業を行った後、全体を一括し
て農業委員会で議論し、本会議に提出する農業法案を策定するプロセスを取るとしており、7月上旬までには農
業委員会としての法案を本会議に提出する意向を示している。これに対し、上院農業委員会のハーキン委員長は、
小委員会での法案修正作業は行わず、同委員長が今後提示する議長案を農業委員会で一括して議論する考えを持
っているが、同議長案は2008年度(2007年10月〜2008年9月)における歳出充当額の確定を待って提示される予
定であり、審議スケジュールは遅れ気味である。

  米国の農業法は本年9月末をもって大半の規定が失効する。仮にその後も新たな農業法が成立しなければ、恒
久法である1949年農業法が適用されることになるが、第二次世界大戦直後に制定された農業法の適用は現実的で
はない。

  緊縮財政の中で改正作業が行われる今回の農業法は、関係者の間でいかに痛みを均等に分かち合うかが課題の
苦しい作業になる。そのような中、当地では、最終的には2002年農業法の短期間の延長という選択肢を取ること
もあり得るとの見方が根強く残っている。





【ワシントン駐在員 郷 達也 平成19年6月6日発】



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