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米国酪農生産者、10億ポンド相当の生乳生産を自主削減


  米国においては2003年7月、酪農家自らの出資により酪農協共同基金(Cooperative Working Together:C
WT)が設立されて以来、この基金団体により、生産者乳価の上昇を目的とした生乳の需給バランスを安定さ
せるための事業が実施されている。CWTは本年2月6日、この取り組みの一環として、搾乳牛のとうたによ
り生乳生産量を自主的に削減する「牛群とうたプログラム」の実施を公表したが(平成19年2月27日付海外駐
在員情報通巻756号参照)、今回は、CWTによりその事業実施結果が公表された。



搾乳牛53,000頭のとう汰により10億ポンド相当の生乳生産を削減

  CWTは6月6日、2005年以来4回目の実施となった「牛群とうたプログラム」により、全米(39州)の333
農場における52,783頭の搾乳牛がとうたされた結果、10億ポンド(45万4千トン)相当の生乳生産が削減され
たことを公表した。

  この事業では、とうたが終了した牛群の生産者に対し、1年間分の生乳販売相当額が補償される。CWTに
よると、今回の事業実施に当たり、2003年の第1回に次ぐ多くの申請(1,374件の入札)があったことから、入
札により決定される補償価格は、前回、第3回目の平均価格(100ポンド当たり6.75ドル(キログラム当たり18
円:1ドル=124円))を大幅に下回る100ポンド当たり平均5.50ドル(同15円)(今回の事業全体としては
5,500万ドル(68億円)の支出)になったとしている。

  なお、このCWT事業の管理運営は、全国生乳生産者連盟(NMPF)が主体となって行っているものの、
NMPFの非会員である酪農協や生産者についても、同額の拠出金(生乳100ポンド当たり10セント(同0.3円))
を支出することにより事業への参加が可能となる。CWTによると、現在、米国の生乳生産量の約7割を占め
る生産者がこの事業へ参加しているとしている。



CWT委員会、2008年以降における事業の継続実施を予定

  米国における生乳の生産者販売価格を見ると、2006年の平均乳価(100ポンド当たり12.90ドル)は、前年比
約15%安と低調に推移したものの、本年初頭以降は上昇局面に転じており、同年2〜4月における各月の平均
乳価は、前年同月を1〜3割程度上回って推移している。

  また、米国農務省経済研究所(USDA/ERS)では、今後の生産者乳価について、2007年の平均乳価は
前年比32〜36%高(同17.05〜17.55ドル(同47〜48円))、さらに、2008年では2006年比32〜40%高(同17.00
〜18.00ドル(同46〜49円))と、さらに上昇基調で推移するとの見通しを示している。

  このように生産者乳価の上昇が見込まれる中、今回の牛群とうたプログラムに対し、生産者から多くの申請
が上げられたことについて、CWTを運営するNMPFのコザック会長は、「今回、生産者から提出された多
くの承認申請は、酪農家が現在直面している経済的困難を暗示するものである」とし、今回の事業実施の背景
には、2007年に入ってからの生産コスト高による酪農経営の悪化が影響しているとの考えを示した。また、同
会長は、「今回、多くの申請(入札)が提出されたことにより、事業コストはわれわれの予想をはるかに下回
る結果となったため、CWTの余剰資金は、今後の牛群とうたプログラムおよび乳製品輸出プログラムの実施
の際に活用されることになる」と述べ、事業の継続的な実施に向け意欲を示した。

  CWT事業は毎年、単年限りの事業として実施されているが、CWT委員会は、今回の牛群とうたプログラ
ムに関する事業結果の公表の中で、2008年1月以降についても、1年間の事業継続実施の意向を示しており、
今後、CWT会員である酪農協などにおいて事業の継続実施の是非が検討されることになる。



○第4回「牛群とうたプログラム」実施概要



資料:CWT(Cooperative Working Together)
注1:牛群とう汰プログラムは、特定の地域における生乳供給に悪影響を及ぼすことのないよう全米を
   5つの地域に区分し、各地域ごとの生乳削減数量を定めた上実施されている。各地域毎に含まれ
   る州は以下のとおり。
      T.北東部:CT,DE,MA,MD,ME,NH,NJ,NY,PA,RI,VT
      U.南東部:AL,AR,FL,GA,KY,LA,MO,MS,NC,SC,TN,VA,MV
      V.中西部:IA,IL,IN,MI,MN,ND,OH,SD,WI
      W.南西部:AZ,CO,KS,NE,NM,OK,TX
      X.西部 :CA,ID,MT,NV,OR,UT,WA,WY

注2:生乳削減数量については、四捨五入の関係で合計と一致しない。また、平均補償価格の全米計は、今回
      承認された333農場の平均価格である。




【ワシントン駐在員 唐澤 哲也 平成19年6月14日発】


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