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畜産団体は、バイオエタノール生産への補助金廃止を要求 豪州のニューサウスウェールズ(NSW)州では、他州に先駆けて今年10月1日から新たに州内の一次卸売り 業者から販売、また州内へ供給されるガソリンに対し、総量(四半期毎)の2%をエタノールとする内容を盛り 込んだ「バイオ燃料法:Biofuel (Ethanol Content) Act 2007」が施行された。一方で、干ばつにより2007/08 年度の穀物生産の大幅な減少が見込まれる中で、バイオエタノールの原料として穀物利用の拡大が見込まれてお り、飼料穀物価格の上昇に悩む肉畜生産者にとっては、大きな悩みの種が増えることになった。 豪州国内の飼料穀物価格は、2006年の干ばつで穀物生産が記録的な不作となったことに加えて、干ばつによる 放牧環境の悪化などから需要は依然として強く、引き続き高止まり傾向にある。このため、生産コストの上昇な どから養豚、酪農を中心に生産の縮小や離農が報じられている。また、飼料穀物を多く利用する養豚、肉牛肥育、 鶏卵、鶏肉などの生産者団体は、連邦政府などに対して高騰を続ける飼料穀物価格への対応を求めるとともに、 競合するバイオエタノール生産に対する補助金の廃止や政策の見直しを求めている。 穀物価格の上昇で採算面から困難との見方、選挙戦を交えて穀物以外の原料も 豪州国内では2007年11月現在、砂糖生産の副産物である糖蜜などを原料とする3つのエタノール製造施設が稼 動しており、その生産能力は年間1万6,300万リットルにすぎない。しかし、2008年から2010年にかけて、小麦 などの穀物生産が盛んなNSW州、西オーストラリア州などを中心に新規、拡張を含めて8つのエタノール製造 施設の建設が予定されており、これにより年間の生産能力は最大で12万300リットルと現在の7倍以上の拡大が期 待されている。また、それらの原料は主に小麦など穀物を主体としている。 しかし、一方では、穀物価格の上昇で穀物を原料に用いるバイオエタノール生産は、採算の面で難しいとの見 方も出ている。また、11月下旬に投票日を迎える連邦選挙戦を控え、形勢が有利とされる野党の一部からセルロ ースを用いたエタノール生産の開発が打ち出されるなど、将来的な見通しは不透明な状況となっている。 連邦政府は飼料穀物輸入を許可、しかし実行は不透明 このような中、豪州連邦政府のマクゴーラン農相は11月、国内の家畜業者に対し、飼料穀物の輸入を認可する と発表した。同農相は、豪州検疫検査局(AQUIS)とバイオセキュリティー・オーストラリア(BA)の検 査結果に基づき、12種類の飼料穀物の輸入を許可するとした。具体的には、カナダ産小麦、大麦、ブラジル産小 麦、米国産トウモロコシ、ソルガム、アルゼンチン産トウモロコシ、ひまわり種、ソルガム、小麦、パラグアイ 産大豆となっている。また、現在、ウクライナ産小麦、ひまわり種、南アフリカ産トウモロコシなどの検査を実 施しているとしている。豪州は2002/03年度の大規模な干ばつで国内の飼料穀物が不足した際、2003年に米国から 4万8千トンのトウモロコシ、イギリスから27万トンの小麦を輸入している。同農相は、これらの輸入申請はま だ提出されてないとした上で、国際的な飼料穀物価格の上昇や輸送費を考慮すると、飼料穀物の輸入は豪州にと って特効薬にはならないと警告しており、今回の輸入はあくまでも緊急措置との立場を示している。ただし、豪 州連邦政府は2006年の干ばつ時も、百件を超える家畜業者からの穀物輸入申請を受理したが、検疫問題などを理 由に実際は輸入を認めなかったことから、今回のケースも業界へのアピール色が強く、実行までにはかなりの時 間を要するのではとみられている。 豪州農業資源経済局(ABARE)によると、2007年10月時点の豪州国内での穀物在庫量は、推定で280万トン とみられ、これは前年同時期の1,050万トンの3割にも満たない水準となっている。【シドニー駐在員 横田 徹 平成19年11月15日】
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