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米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は、2003年の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生に より、家きん肉の国際貿易に生じた影響を分析した報告書を公表した。以下にその概要を紹介する。 HPAIの発生により家きん肉の消費が世界的に減少 1997年に香港で初めて発生したHPAIは、2003年10月のベトナムでの発生を契機に、2004年初頭にかけて 東南アジアから東アジア一帯に広がった。これらの地域では、HPAIがヒトにも感染することへの懸念から、 2004年の年間一人当たり家きん肉消費量はシンガポールで26%、タイで16%、中国で15%減少するなど、前年 を大きく下回った。 また、2006年の初頭には欧州でHPAIが発生し、短期間ではあったが発生国の家きん肉消費が大幅に減少 し、結果的に、2006年の鶏肉(▲2.7%減)と七面鳥肉(▲2.8%減)の消費量は前年を下回った。 なお、消費者への啓もう活動の結果、@HPAIウイルスは華氏165度(摂氏74度)で加熱すれば死滅する こと、A感染した家きんなどの汚染源に密接かつ継続的に接触しない限りヒトへの感染は起こらないことが浸 透したため、2003年のケースではほぼ1年、2006年のケースでは2〜3カ月月で消費が以前の水準に戻ってお り、USDAは比較的短期間のうちに消費が回復したと評価している。 家きん肉の輸出価格は非発生国でも一時的に低下 HPAI発生直後の予測とは異なり、2004年の家きん肉の生産は前年を1.6%上回った。これは、HPAI 発生国であるタイで生産が大きく減少(▲28%減)したものの、非発生国の生産量が増加した(ブラジル:10 %増、米国:3%増)ことが主な原因である。また、2005年の生産にはHPAIの影響がほとんど現れず、前 年を4.7%上回る8,140万トンになった。さらに、2006年については欧州でのHPAIの発生によりEUの生産 量が減少したものの、米国やタイの生産増により、全体では前年の生産量を1.8%上回った。 HPAIが発生による価格への影響について見ると、日本や中国などの発生国では需要の低下により国内価 格が一時的に低下したが、数カ月から1年で元の水準に回復している。また、非発生国の家きん肉の輸出価格 も、輸入国の需要減少の影響で低下する傾向が見られた。なお、2006年の欧州での発生時にもブラジルの輸出 価格が低下するなど同様の傾向が見られた。 家きん肉の国際貿易に占める加熱処理肉の割合が上昇 このように、需給や価格に与える影響は比較的短期間のうちに回復しているが、その一方で、HPAIの発 生以降、家きん肉の国際貿易には大きな変化が生じている。 2004年1〜3月の家きん肉全体の輸出量は、消費の大幅な減少もあって、2003年10〜12月に比べ23%減少し た。また、日本などの主要輸入国は、2004年初頭以降、HPAIが発生したタイや中国などの伝統的な取引先 からの生鮮・冷凍家きん肉の輸入を禁止しており、家きん肉の輸入先をHPAIの清浄国であるブラジルなど に転換した。このため、タイおよび中国では、生鮮・冷凍家きん肉の輸出を減少させる一方で、安価な人件費 を生かして加熱処理家きん肉の生産を急速に拡大させており、HPAIが発生していないブラジルも、七面鳥 肉を中心に加熱処理家きん肉の生産を増加させている。 この結果、家きん肉の国際貿易全体に占める加熱処理家きん肉の割合は、2004年1〜3月の6.4%から2007 年1〜3月には11.4%にまで上昇している。また、2006年初めに欧州でHPAIが発生した際も、生鮮・冷凍 家きん肉の輸出が大きく減少する一方で、加熱処理家きん肉の輸出はほとんど減少せず、国際需給バランスの 失調を防止する役目を果たしている。 USDAは、加熱処理家きん肉の消費が大きく減少しなかった原因の一つとして、より安全な製品を求める 消費者の行動が背景にあるとし、これが加熱処理家きん肉の生産増加の原因にもなっていると分析している。 【ワシントン駐在員 郷 達也 平成19年11月15日発】
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