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世界の豚肉生産者団体、小売店や消費者に値上げを訴える(カナダ)


世界7カ国の豚肉生産者団体が共同声明

 カナダ豚肉協議会(CPC)など世界の豚肉生産者団体は9月25日、世界中の豚肉生産者が飼料価格の高騰
により採算割れの状態に陥っているとして、豚肉の卸売価格や小売価格を直ちに値上げし、生産者の収入を引
き上げることが必要だとする共同声明を発表した。

 今回の共同声明に参加したのは、中国の南京で開催されていた第4回世界豚肉協議会に出席した世界各国の
豚肉生産者団体のうち、カナダ豚肉協議会、英国肉豚経営委員会、南アフリカ豚肉生産者協会、ニュージーラ
ンド豚肉産業ボード、豪州豚肉有限公社、オランダ養豚家組合、オランダ農業園芸連盟養豚部門、フランス肉
豚全国協議会の7カ国8団体であり、参加国は北米、オセアニア、欧州、アフリカの4大陸にまたがっている。


飼料価格の高騰は養豚農家の経営努力では補いきれず

 この声明において、養豚農家にとって目下の最大の問題は、国際的な穀物価格の上昇により、豚肉の生産費
の70%以上を占める飼料コストが大きく増加し、経営を圧迫していることであるとしている。また、穀物の国
際価格が高騰している最大の理由は、天候不順による不作という短期的な要因にあるのではなく、バイオ燃料
の原料として使われる穀物の需要が大きく増加しているという構造的な要因にあるとした上で、多くの国で支
払われているバイオ燃料に対する補助金が穀物需要をさらに増大させ、大幅な価格の上昇を招いていることを
指摘している。

 一方、飼料価格が高騰を続けているため、養豚農家は肉豚の出荷のたびにかなりの損失を余儀なくされてお
り、多くの経営が廃業に追い込まれているとしている。また、生産効率を高めるためにあらゆる手段を講じて
いるものの、飼料価格の高騰にはとうてい追いつかないのが現状であり、生産者価格の引き上げ以外には対応
のしようがないとして、生産者の窮状を強く訴えている。


生産が減少すれば中期的にはより大きな価格上昇を招く可能性も

 さらに、この声明では、今後の展開として予想される二つのシナリオを提示している。

 一つ目のシナリオは、生産者の廃業により世界中の豚肉生産が大きく減少し、その結果、卸売価格や小売価
格が上昇してこれまでよりもひときわ高い水準になるというものであり、中国で昨年から生じている豚肉価格
の高騰を事例として引用している。

 二つ目のシナリオは、今の段階で、消費者、食品流通関係者、小売業者と協調して豚肉価格を引き上げ、生
産者への支払いを増加させるというものである。この声明では、生産者価格が上昇すれば豚肉の生産は維持さ
れ、卸売価格や小売価格の大幅な上昇は回避できることから、中期的に見ればこの方がすべての関係者にとっ
て最もよい結果をもたらすとしている。

 その上で、豚肉生産者は、「消費者は合理的な価格で豚肉を購入でき、食品流通関係者や小売関係者は安定
供給により顧客を満足させることができ、農家は豚肉生産を続けることができる」状況を作り出すため、消費
者、流通関係者、小売関係者に協力を求めて対話を進めていく考えを明らかにしている。



北米では豚肉生産をめぐる状況に明暗が分かれる

 今回、共同声明を発表した7カ国のうち、最大の豚肉輸出国であるカナダの豚肉業界は、米国のバイオ燃料
振興政策に起因するトウモロコシ価格の上昇だけでなく、大幅なカナダドル高(過去5年間で対米ドル為替は
5割以上上昇)による国際競争力の低下、労賃単価の上昇を背景とした大手パッカーの処理頭数の削減、州政
府による環境規制や動物輸送規制の強化など多くの課題を抱えており、養豚経営は極めて厳しい状況にある。

 これに対し、米国の豚肉業界は、エタノール生産の副産物であるDDGSが安価に利用できるなど生産コス
ト面で有利な環境にあり、また、契約出荷によるパッカーと養豚農家との垂直統合が徐々に進展する中、本年
5月には米国最大の養豚企業・豚肉パッカーであるスミスフィールド・フーズ社が全米第二位の養豚企業であ
ったプレミアム・スタンダード・ファーム社を買収するなど水平統合の動きも進展しつつある。米国内で再生
可能燃料に対する補助金政策に強く反対している全国豚肉生産者協議会(NPPC)が、今回の声明に加わっ
ていないことは興味深い。

 そのような中で、「生産コストの上昇を価格に反映させるよう対話を求めることは長期的には消費者の利益
にもなる」とする今回の養豚業界の声明は、本来、わが国のような輸入国こそがその意味するところを十分に
考えるべきなのかもしれない。



【ワシントン駐在員 郷 達也 平成19年10月3日発】



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