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生乳クオータ制度の見直しの方向(EU)


  EUでは2008年に、2003年の改革を経て実施されている現行の共通農業政策(CAP)の中間検証作業として
「ヘルス・チェック」の実施が予定されている。これは、これまでの政策手段を評価・検証し、2009年から2013
年までの間の政策実施に向けて必要な調整を行うものである。
 
  このヘルス・チェックにおいて、大きな課題の一つとなっているのが、生乳生産割当枠(クオータ)制度のあ
り方である。本制度は、84年に、生乳(バター)の過剰生産とその処理に伴う財政支出を抑制することを目的と
して導入された制度である。欧州委員会は、2015年以降、本制度を延長することはないと明言しており、2015年
3月31日をもって廃止することは既定路線となっている。したがって、ヘルス・チェックにおいては、2015年の生
乳クオータ廃止に向けた「ソフトランディング」のための制度が盛り込まれることとなる。

  この「ソフトランディング」の方法については、現在、業界関係者などの間で、主に3つの方法が予想されて
いる。


生乳クオータの割り当て数量の増加

 現在の規則では、2008年以降の加盟国ごとの生乳クオータは2015年まで同水準となっている。これを、2009年
以降、毎年クオータを増やし、2015年時点で、クオータによる生産量の上限を実質的に撤廃するのが一つ目の方
法である。この場合、クオータが増加することにより、取引されるクオータの価値が現在より下がるため、規模
拡大を目指す生産者にとってコスト面で拡大が容易となる。
 
  供給量増加による市場への悪影響が懸念されるが、毎年、徐々に増加させた場合には、市場に与える影響やそ
の安定のための財政支出を抑制することが可能となる。さらに、供給量が増加することにより生乳・乳製品価格
の低減につながり、国際競争力の向上が期待できる。したがって、仮に本方法を採用する場合には、市場に悪影
響を与えないような適切な拡大水準の設定がポイントとなる。

  なお、9月の農相理事会では、ポーランド農相よりできるだけ早期のクオータ拡大の要請が出され、多くの加
盟国がこれを支持している。



課徴金の引き下げ

 現在、EUでは、加盟国ごとに定めた生乳クオータを超過した場合、ペナルティーとして課徴金を課しており、
2007年以降は、100キログラム当たり27.83ユーロ(約4,600円:1ユーロ=165円)を課すこととなっている。二
つ目の方法として、この課徴金を引き下げて、生乳生産量の増加を現行より容易にする方法が予想されており、
前述のクオータを年々増加させる方法と同様の効果が期待される。

  ただし、この場合、規模拡大を行う意欲のある生産者に対し、結果的にペナルティーを課すこととなるため、
逆に、拡大意欲を減退させる懸念がある。


地域間または加盟国間での生乳クオータの移譲

 三つ目の方法として、EU全体の生乳クオータ数量は拡大させずに、クオータが余っている地域・国から、不
足している地域・国に移譲する方法が予想されている。この方法では、より生産性の高い地域・国にクオータが
集まることとなる。しかしながら、この方法では、少ないクオータの残余を取り合うために取引価格が現行より
上昇し、生産コストの増大につながる可能性がある。また、加盟国間の取引については、制度の複雑化が予想さ
れ、行政コストが増大する可能性があることや、実効性に疑問が残る。さらに、生乳価格の低減が前述の方法に
比べ期待できないことから、乳業業界に対するメリットも大きくない。


今後の予定

 欧州委員会によるヘルス・チェックの原案は、2007年11月20日に採択され、その後、欧州議会や欧州理事会に
おける議論を経て、2008年中に最終決定される予定となっている。この場合、生乳クオータ制度の変更について
は2009年4月1日より適用される見込みである。


【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成19年10月17日発】

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