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農業信託組織(農業ファンド)による農産物生産の拡大(アルゼンチン)

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 アルゼンチンでは、農地所有者は、借地料だけを受け取り、全ての農作業を委託してしまう農業信託組織による農産物生産が拡大している。大きな資金を活用して効率的な生産が行われるようになり、近年の農産物生産量の拡大に大きく貢献しているものの、一方で地方の過疎化の要因ともなっていると言われている。

 このため、農業信託組織の活動に規制を加えるべきと活動を進めているアルゼンチン農業連合会(FAA)において、農業信託組織の現状と問題点を伺った。

農産物生産量の半分を担う農業信託組織

 まず農業信託組織の現状を見ると、アルゼンチン国内に約250組織あり、アルゼンチンの農産物生産量の約半分を担っている。農業信託組織は1995年頃から始まり、パンパを中心に活動してきたが、近年の農産物価格の上昇により、アルゼンチン北部にも活動範囲を広げている。

 農作業受託組織と農地所有者の借地契約は1年ごとに行われ、生産品目は農作業受託組織が決める場合がほとんどである。また、農作業受託組織は、農業資材(種子、農薬、肥料など)を大量に買い付けるため、単位当たりで見ると安く購入することができる。このため、農地所有者に対し、自ら耕作するよりも魅力的な借地料を提示することができる。

○農業信託組織の仕組み
農業信託組織の仕組み
注: 農業信託組織は、外部機関(機関投資家または銀行)から借り入れた資金を基に、借地により農 産物を生産・販売し、収益を得ている。なお、農業信託組織は、自ら耕作を行わず農作業受託組織(コントラクター)に任せる場合がほとんどである。
アルゼンチンの農産物生産量

地方の過疎化を加速

 このように農業信託組織は効率的な農業生産を行うことにより、農地所有者の収益向上、農産物生産量の向上に大きく貢献している。しかしながら、一方で、
(1) これまで農地所有者は、それぞれの集落で経営を行っていたが、農業信託組織への委託が進むことにより、近隣の市街に移り住むようになり、集落の過疎化を促進させていること
(2) 農業信託組織は1年間で得られる農地からの収益を最大化することが目的となるため、収益面とリスク面でバランスがとれた大豆生産に偏りがちであること。また大豆生産は比較的労働力を必要としないことから、過疎化をより加速化していること
(3) 農業信託組織が借地する農地は300ヘクタール以上の使い勝手の良い農地であり、このような広い農地を持たない小規模経営農家は、集落に留まることとなるが、過疎化が進む中で、ますます競争力が無くなっていること
の問題が発生している。

このため、FAAは、「集落の発展と国民のために」をスローガンに

(1) 借地契約は5年以上
(2) 自ら農業を行う経営者に対する借地に関する免税
(3) 自ら農業を行う経営者に対する農業災害補償と技術導入

を柱とした借地法の整備の必要性を訴えている。
【松本 隆志 平成20年3月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
Tel:03-3583-9805