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穀物輸出税の政府案は廃案(アルゼンチン)

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穀物の輸出税率は以前に戻る

 アルゼンチン国会の下院は7月4日に輸出税についての審議を行い、翌日にまでおよぶ議論の後、政府案が可決された。

 与党は、輸出税の政府案の上院での可決に自信を持っていたことから、速やかな採決を期待したが、上院予備会議は重要な案件を急いで処理する理由はないとし、採決は7月16日と決定された。

 生産者団体は7月7日、上院での政府案の可決に反対するため国会周辺で抗議活動を行うことを発表したが、コボス副大統領(アルゼンチンでは上院議長を兼職する)は各生産者団体会長との会合を持ち、上院での審議を妨げないよう抗議活動を延期するよう要請したため、抗議活動は延期となった。

 7月16日には上院での審議と相まって、ブエノスアイレス市内で賛成派と反対派の会合が行われた。国会の近くで開かれた与党の主催する賛成派会合に10万3千人、農牧展会場の近くで開かれた生産者団体の主催する反対派会合に23万7千人が参集したと伝えられた。

 上院での審議も同様に翌日にまでおよぶ議論の後、採決が行われ、議員投票の結果、賛成、反対とも同数となり、上院議長であるコボス副大統領が投票することになった。コボス副大統領は投票に当たり「歴史が私を裁くだろう。もし私が間違ったのなら許して欲しい。私の投票はNOである」と述べ、政府案は上院で否決された。

 国会審議を踏まえ、フェルナンデス大統領は7月18日に経済生産省決議125/2008号を廃止することを決定した。これにより、それぞれトウモロコシの輸出税は25%、大豆は35%、小麦は28%、ひまわりは32%の固定税率に戻ることになる。

輸出価格のみに着目したインフレ抑制策は限界か

 穀物輸出税の政府案に関する議論は終結したが、腹心のコボス副大統領が政府案に反対したことは、まだ3年以上の任期が残るフェルナンデス大統領の政権運営に支障となるものとみられる。なお、副大統領は大統領とともに国民投票により選ばれるため、大統領に任免権はない。審議終了後のインタビューの際、コボス副大統領の職を辞する考えは無いことを述べている。

 そもそも穀物輸出税の政府案は、穀物の国内価格と輸出価格の切り離しを進め、国内価格上昇を抑えることによりインフレを抑制すること、かつ国内生産を国内需要の高いトウモロコシや小麦の生産に仕向け、大豆の拡大傾向を抑制することであった。今回の国会審議では、経営規模などを考慮せず、FOB輸出価格のみで税率を決定するインフレ抑制策が否定された。今後、生産者団体は国内農業の振興の観点から農業政策を見直すように、政府に対し対応を迫るものとみられる。
【松本 隆志 平成20年7月19日発】
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