牛の排出するメタンガスの簡易測定技術を開発(アルゼンチン)
2005年にINTAが開発
日本の一部報道紙に掲載(通信社からの情報発信)された「アルゼンチン ブエノスアイレス市郊外で牛が吐く大量のあい気(げっぷ)を背中のビニールタンクに集め、メタンガスを発生させる試み」に関して、その詳細を報告する。
この技術開発は現在、ブエノスアイレス市から西に26キロメートルほど行った国立農牧技術院(INTA)で、現在は4名(獣医師1名、研究者3名)体制で行われている。
アルゼンチンは、1997年に京都で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」に基づく、地球温暖化ガスの排出抑制義務はないものの、排出量の報告義務がある。このためINTAは牛から排出されるメタンガスの簡易測定技術の開発を行っている。責任者(獣医)によると、現在アルゼンチンから排出されるメタンガスの3割が牛から排出されるとのことである。INTAは1996年から牛から排出されるメタンガスの計測を行ってきたが、その過程において低コストで正確にメタンガスを計測できる方法について研究し、2005年にこの技術を開発したとのことである。
現在はセンサー測定
この技術は、まずガスがたまる牛の胃の上層部(第一胃、ル-メン)付近に穴を二カ所開け、バルブで密閉しそこに胃まで管を通す。そして牛の背中にグローブ(ビニール風船のようなもの) を乗せて、直接管をつなげる。これにより、胃の中のガスが漏れなく集められ、胃に還流することはない(牛からあい気は排出されない)とのことである。その後、グローブにたまったガスを測定装置で計測する。現在は10頭(すべてホルスタイン種)が研究に利用されており、グローブは24時間取り付けられている。なお、牛の管を取り外せば、その傷は一週間で治るとのことである。
牛などの反すう動物は、胃の中に常在している微生物が牧草などの繊維を消化することによって、牧草などの繊維を栄養にしている。しかし、同時に消化によって生じたメタンガスをあい気として空気中に放出する。
メタンガスは二酸化炭素よりも地球温暖化に与える影響が大きい(20倍以上)と言われている。なお、INTAの研究によれば、飼料にタンニンを混ぜることで、従来のメタンガス排出量の25%を削減することができたとのことである。
しかし、以上の方法は現在、メタンガスをためるためだけに利用されており、現在の測定方法は技術開発が進み、牛の胃の上層部付近のすぐ脇にメタンガスを感知するセンサーと、ガスのデータを直接無線でパソコンに送るアンテナが付いた測定装置が取り付けられている。第一胃から採取したガスは、水やガスの特性を利用し、二段階で不純物が取り除かれて装置に送られるように工夫されており、そこで計測されたメタンガスなどを含むガスのデータは10秒ごとにパソコンに送信される。なお、このデータはINTAのホームページ上に公開されており、INTAは今後イラスト化するなどしてデータをわかりやすくしたいとのことである。
情報発信後、中国などから照会
この技術は、経費的には計測装置代約2,000米ドル(約21万4千円:1米ドル=107円)と周辺機器の整備費用だけで済むとのことである。現在はニュージーランドでも一部利用され、今後ウルグアイの研究学会でも発表されるとのことである。また、南半球全体でこの技術を利用しようとの動きもあるという。この技術は約一年前に地元紙に掲載されたが、その後、中国、イギリス、カナダなどからこの詳細などに関する照会があったという。今後は、INTAも諸外国や民間企業などとの共同研究などを積極的に行っていきたいとのことである。
【石井 清栄 平成20年8月20日発】
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