欧州農相理、CAPのヘルスチェックに合意
EUの農相理事会は11月20日、共通農業政策(CAP)の中間検証作業として行う「ヘルスチェック」に合意した。「ヘルスチェック」は現行のCAPの政策手段を評価、検証し2009年以降の政策に向けて必要な調整を行うものである。本年5月に欧州委員会より「ヘルスチェック」の案が提出され、農相理事会で議論が開始、6カ月の協議を経て今回の合意となった。
生乳クオータ制度、2015年廃止が決定
生乳クオータ制度については、欧州委員会の提案通り2015年3月31日をもって廃止されこととなった。制度の廃止に向けたいわゆる「ソフトランディング(軟着陸)」の方法として、現行制度では、2008年以降の加盟国ごとの生乳クオータは2015年まで同水準となっているが、これを2009/10年から2013/14年の5年間で毎年1%増加、全体で5%増加することとした。なお、毎年クオータ量の超過常連国となっているイタリアについては、特別措置として前倒しで2009/10年から増加率を一挙に5%とすることを認めるとしている。
ただし、ほかの加盟国から、この措置で対応してもイタリアがさらに超過する恐れがあるとの懸念の声が上がったことから、クオータ量に対する超過が6%以上となった場合は、通常のペナルティーの150%を課すこととした。
また、「ソフトランディング」を評価するため、欧州委員会は少なくとも2回(2010年6月および2012年6月)、中間報告を提出することとなっている。
モジュレーションに係る削減率は10%で決着
農村開発政策の重要性からその予算を確保するため、既に年間の直接支払い総額の段階的引き下げによる農村開発向け予算への振り替え(モジュレーション)が義務付けられている。これは直接支払い受給額が5,000ユーロ(63万円、1ユーロ=126円)を超える部分について定められた率で削減されることとなっており、2012年までの削減率は5%となっている。
欧州委員会では、この水準をさらに引き上げるべきとして2009年より現行の5%に2%追加した7%とし、それ以降毎年2%増加、2013年の削減率を13%とする案を提出していた。しかし、この見直しは生産者の収入に直接影響を及ぼすことから、議論にかなりの時間を要していた。今回の農相理事会において、欧州委員会と農相理事会との間で妥協点を見いだした結果、2010年より7%とし、それ以降毎年1%増加、2013年の削減率を10%とする内容で合意した。
そのほかの主な内容
そのほかの主な内容としては、
- 生産者に対する直接支払いについて、加盟国の大部分は生産と切り離された生産者を単位とした直接支払い(デカップリング)へと移行しているが、一部の加盟国では生産とリンクした直接支払いが残っている。これらすべてをデカップリングへ移行する
- 一部の加盟国が採用している、各国が定める面積当たりの単価に乗じて直接支払いの額を算定する単一農地面積支払制度(Single Area Payment Shame:SAPS)の採用期限を、現在の2010年(ブルガリア、ルーマニアは2011年)から2013年まで延長する
- 穀物の生産を抑制するための休耕(セットアサイド)制度については、1ヘクタール以上の耕地当たり少なくとも10%の休耕地を組み込むこととなっているが、これを廃止し、環境保護の観点から実施する
などとなっている。
この合意を受けて、欧州農業組織委員会/欧州農業組合員会(COPA-COGECA)では、「生産者の所得を揺るがす政治的な妥協に大変失望した。特にこの危機的状況の中では、生産者の所得を確保していく方策が見いだせない。」と遺憾のコメントを出しているが、そのほかの関係団体は比較的落ち着いた反応となっている。
フィッシャー・ボエル委員は結果に満足
欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は11月24日、この合意について同氏のブログにおいて、「長期間にわたり議論された結果、双方(欧州委員会と農相理事会)において妥協、合意に達した。内容ある合意に大変満足している。ヘルスチェックを通じて見直されたCAPは、欧州の生産者に支持を行う一方で、世界市場のニーズにより敏感に対応した生産を促すものと確信しており、今回のCAPの大きな前進は、数年後のさらなる前進をもたらすものになるであろう。」とのコメントを出している。
【小林 奈穂美 平成20年11月25日発】
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