写真で見る豪州の酪農生産−干ばつの被害に晒されたビクトリア州の酪農地域を訪ねて−
豪州の東部州では、2006年、2007年と2年続いた干ばつにより、酪農生産は大きく減少した。
特に豪州の生乳生産の6割以上を産出する東部ビクトリア(VIC)州では、放牧環境の悪化や飼料穀物などの価格上昇で、酪農経営は厳しい局面に立たされてきた。このため、酪農の廃業や飼養する乳牛の売却、とう汰などが目立ったところでもある。
同州の酪農生産は、北部、西部、南部の3つの地域で行われており、それぞれに特色がある。2008年2月初旬、干ばつの被害が大きかった北部地域、また、生産が回復基調にある南部地域を訪ね、その現状を探ってみた。
【ビクトリア州北部地域】
(2008年2月)
2007年末から断続的に降り続いた雨により、放牧状況の改善が期待されていた。しかし、結果としては、大きな改善にはつながらなかった。
ただし、この地域の酪農家にとっては、このわずかな牧草でも経営改善につながるとして、心理的な安心感が出ているようだ。
写真の放牧地(2008年2月初旬撮影)では、牧草は枯れた感じで広がっているが、場所によっては、うっすらと緑色(新しい牧草)に変化してきた所も出てきている。
ただし、季節的には酪農生産はすでに終盤を迎えているため、この地域での生乳生産の大幅な改善には遅すぎたかもしれない。
(2007年12月)
資料:Dairy Australia
ビクトリア州北部地域の生乳生産の推移(赤い線が2007/08年度)。2007年12月末の生乳生産量は、「100年に一度」といわれた干ばつで大幅に減産した前年度の水準を、さらに15.9%も下回った状態が続いている。
ニューサウスウェールズ(NSW)州南部に位置し、マレー川の源となる上流のヒューム(HUME)ダム(2008年2月初旬撮影)。
貯水量は、満水時の16.8%(2008年2月7日現在)と依然として低水準。
しかし、干ばつの影響があった2003、2007年の同時期(10%以下)と比べれば、まだ、良いとされるのかもしれない。(NSW州南部:2008年2月)
(2008年2月)
(2007年12月)
VIC州北部およびNSW州南部リベリナ地域の農業を支えるマレー川。2007年末から降り続いた雨により、この地域の干ばつの懸念は解消との報道も一部では出ているが、2007年12月時点と比べて、水量は、わずかな上昇にしか過ぎない。上流のダムの貯水量が乏しい中で、抜本的な解消には至っていない。
(マレー川中域にて:NSW州COROWA近郊)
【VIC州南部酪農地帯】
牧草は、やや枯れ気味のところも見られるが、北部地域とは風景が異なり放牧には耐えうる状態が続いている。乳牛の頭数も北部地域に比べてとう汰が進まなかったことから、生乳生産は回復基調にある。
(2008年2月)
この地域の酪農は、丘陵地帯での放牧が中心であることから、北部地域のような“かんがい酪農”による放牧地の維持管理が難しく、もっぱら自然の雨だけが頼りとなる。
(2008年2月)
北部の酪農地域に比べれば、南部地域の牧草の生育状況は、良好とは言えないまでも可の状態か。
(2008年2月)
資料:Dairy Australia
VIC州東部地域の生乳生産の推移(赤い線が2007/08年度)。2007年12月現在、対前年比4%減で推移している。しかし、放牧環境の改善もあり、生産は徐々に回復基調にある。12月単月では、前年同月比0.1%減まで回復。同じく生産が回復基調にある西部地域とともに、州の生乳生産を牽引している。
資料:豪州気象局
2007年11月〜2008年1月の3カ月間の降雨状況。東部3州でまとまった降雨が観測されている。し
かし、VIC州については、いまだ州の大部分が干ばつ地域の指標となる例外的環境(EC)地域に
指定されており、水不足への懸念は、依然として解決されていない。
【横田 徹 平成20年2月8日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:井上)
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