食肉処理大手が業績回復に向け資本提携(NZ)
SFFは、100%生産者出資の農協組織から脱却
ニュージーランド(NZ)最大の農協組織の食肉処理会社であるシルバー・ファーン・ファームズ(SFF、旧PPCS)は9月8日、投票の結果、農業関連企業であるPGGライトソン(PGG)によるSFFへの50%の資本参加が承認された。この投票は、SFFの出資者である羊、肉牛などの生産者により行われ、承認に必要な75%以上となる75.6%の賛成が得られた。PGGによる出資額は2億2千万NZドル(158億4千万円:1NZドル=72円)で、SFFの負債の圧縮、新技術の開発や新規市場の開拓に充当される。この結果、SFFは60年間に及ぶ100%生産者出資の農協組織から、PGGとの資本提携により新たな運営が行われることとなる。
SFFは、NZ羊肉輸出量の33%、牛肉輸出量の35%、シカ肉輸出量の54%を占めている。
羊飼養頭数の減少を背景として、食肉処理施設の規模の見直しを図る
今回の資本提携の背景には、NZ食肉業界の業績低迷がある。NZ羊肉産業は、食肉価格の低迷および干ばつの影響などによる経営環境の悪化に伴い、最近3年間は業績が低迷している。この結果、羊生産者は、経営の中止や経営環境が良好な酪農への経営転換を図ったため、羊飼養頭数が減少した。食肉・羊毛業界団体ミート&ウールNZによると、2008年6月末現在の羊飼養頭数は、前年同期比11.2%減の3,415万頭で1950年以来の低水準となっている。このため、2008/09年度の羊と畜頭数は、前年度より約900万頭減少するとみられている。
SFFではこうした経営環境の悪化やと畜頭数減少の対策として、食肉処理施設などの規模の見直しを行った結果、昨年11月以降、6つの食肉処理施設などの閉鎖を相次ぎ公表した。
NZ食肉業界再編計画は、これまで提案されるものの実現に至らず
一方、こうした食肉業界の状況を打開するため、昨年来、業界再編の動きが続いていた。2007年6月には、SFF社が同じ農協組織の食肉処理会社であるアライアンス・グループ(AG)と合併に向けた共同研究を開始したが、同年9月、この提案は実現に至らなかった。また2008年2月には、AGがNZの羊肉、牛肉およびシカ肉市場の約80%を占める大規模な業界再編計画を提案したが、同年4月、最終的に合意に至らなかった。さらに2008年7月には、ミート・インダストリー・アクション・グループが、SFFとAGの2大農協の合併を提案したが、9月5日、AGで行われた出資者による投票でこの提案が否決されている。
今後、さらなる食肉業界再編に及ぶ可能性
PGGのSFFへの資本提携については2008年6月、PGGとSFF理事会との間で合意に達した。その後、9月の投票に向けSFFの出資者である生産者に対し70回に及ぶ説明会が開催され、今回の投票に至った。
両社では、この資本提携により、食肉の生産から消費に至るまでの食肉の供給体制が整い、一層の合理化が図られる。その結果、長期的には1億1千万NZドル(97億2千万円)に及ぶ経営上の波及効果を期待している。
PGGでは、今後、NZ肉畜生産者が経営状況を改善させていくためには、さらなる業界再編が必須であると指摘しており、今回の資本提携を発端としてさらなる食肉業界の再編が進展するとの見方もされている。
【井田 俊二 平成20年9月9日発】
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