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米国農務省、2008年度のトウモロコシなど農作物需給予測を公表

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 米国農務省(USDA)は2月21〜22日にかけ、ワシントンDCにおいて農業観測会議(Agricultural Outlook Forum)を開催し、主要農作物の需給見通しを公表した。同省はこれに先がけ、同月12日には、2017年までの農畜産物の中期的な需給見通しを公表していたが、その中では、昨年12月に成立した新エネルギー法に盛り込まれた再生可能燃料使用基準(RFS)の拡大措置などが反映されていなかったため、今回のトウモロコシをはじめとする主要作物の需給見通しには農業関係者の高い注目が集まっていた。

トウモロコシ生産は引き続き高水準も、燃料需要の増大により価格は上昇基調

 今回の予測によると、2008年のトウモロコシ作付面積は、前年比4%減の9,000万エーカー、また、2008年度(2008年9月〜2009年8月)の生産量は、前年度比2%減の128億1,000万ブッシェルと見込まれている。作付面積、生産量はともに本年度水準こそわずかに下回るものの、依然として歴史的な高水準を維持するものとされている。なお、これらは、USDAが先に公表した中期見通しにおける同年度の予測値に比べ、それぞれ2%程度上方修正されている。

 トウモロコシ需要を見ると、エタノール向けが前年度比28%増(41億ブッシェル)と大幅に増大する一方、飼料等向け(同9%減の54億ブッシェル)と輸出向け(同12%減の21億5,000万ブッシェル)がそれぞれかなり減少することから、需要全体では同0.5%増(130億2,000万ブッシェル)になるものと見込まれている。

 今後のエタノール向け需要に関しては、新エネルギー法において、2008年以降の再生可能燃料の使用基準(RFS)が、現行法を大幅に上回る水準に拡大された影響が極めて大きい。この中で、トウモロコシベースのエタノールについては、2008年に90億ガロン、2009年には105億ガロンの使用が義務付けられている。再生可能燃料協会(RFA)によると、本年2月現在、米国におけるエタノールの年間生産能力は、前年同期比43%増の80億ガロンとされ、さらに、現在、建設および拡張中の工場が稼働する18〜24カ月後には134億ガロンまで拡大するものと見られている。USDAでは、現在のエタノール工場の建設状況から、年間生産能力は本年夏までには90億ガロンを上回るとともに、2008年度開始後(2008年9月以降)間もなく120億ガロンに達することが予想されるものの、同年度におけるエタノール向け需要については、今回示された水準(41億ブッシェル)を上回ることはないとの見解を明確に示している。

 このようなことから、トウモロコシの2008年度期末在庫は、前年同期比14%減の12億4,300万ブッシェルと4年連続で前年同期を下回る結果となり、在庫に余裕がない状況は継続するものとされている。なお、同年度におけるトウモロコシの生産者平均販売価格は、前年度水準を15%程度上回る1ブッシェル当たり4.60ドル(トン当たり19,196円:1ドル=106円)になるものと見込まれている。

大豆生産は増大も繰越在庫の減少により期末在庫は依然低水準、価格は記録的高値に

 2008年度における大豆の生産量は、本年度、トウモロコシへの作付けシフトなどにより大幅に減少した作付面積が、収益性の向上や輪作の優位性などにより回復が見込まれることから(前年度比12%増の7,100万エーカー)、同14%増の29億5,000万ブッシェルとされている。

 一方、大豆需要は、国内搾油向けがわずかに増加(同1%増)するものの、輸出向けがかなりの程度減少(同9%減)することから、需要全体では同2%減(29億4,700万ブッシェル)となるものと見込まれている。この結果、大豆の2008年度期末在庫は、前年同期比6%増(1億6,900万ブッシェル)となるものの、依然として低水準にとどまるものとされている。

 また、同年度における生産者平均販売価格は、世界的な油糧種子在庫のひっ迫感や、高水準で推移する他の穀物価格に押し上げられることにより、前年度水準を1割程度上回る1ブッシェル当たり11.50ドルの記録的高値になるものと見込まれている。

 なお、大豆ミールの生産および需要については、前年度とほぼ同水準とされており、価格の高騰は若干緩和されるものの、ショートトン当たり3ドル(トン当たり351円)を上回る水準で推移するものと見込まれている。

小麦生産は増大、需要は輸出向けが大幅減も価格は高止まり

 2008年度(2008年6月〜2009年5月)における小麦の生産量は、昨秋以降の小麦価格の高騰などにより作付面積の増加(前年度比6%増の6,400万エーカー)が見込まれることから、同13%増の23億3,300万ブッシェルとされている。

 小麦需要を見ると、全体の約45%を占める食品向けは前年度とほぼ同水準(同1%増の9億5,500万ブッシェル)、飼料等向けは同約6割増(1億7,500万ブッシェル)とされる一方、本年度大幅に増大した輸出向けは、EUや豪州など主要生産国における生産増などによる競争の激化が予想されることから、前年度比21%減(9億5,000万ブッシェル)と減速が見込まれており、需要全体では同8%減(21億6,400万ブッシェル)になるものとされている。

 この結果、小麦の2008年度期末在庫は、前年同期に比べ約2倍となる5億3,800万ブッシェルまで押し上げられことにより、需給ひっ迫感は比較的弱まる一方、同年度における生産者平均販売価格は、前年度水準を5%程度上回る1ブッシェル当たり7.00ドル(トン当たり27,264円)程度と、価格は依然として高止まり傾向で推移するものと見込まれている。

食品価格は3〜4%上昇の見通し、畜産業界は飼料価格高の懸念を強調

 以上のように、2008年度における主要作物の作付け・生産予測については、現在の記録的な穀物価格高やバイオ燃料生産の拡大など穀物需要の増大などを背景として、軒並み高水準の見通しが立てられている。

 今回の会議の冒頭、2008年度の農産物需給見通しに関する講演を行ったUSDAのグラウバー・チーフエコノミストによると、同年度の8大主要作物(飼料穀物(トウモロコシ、ソルガム、大麦、エンバク)、大豆、小麦、綿花、コメ)の総作付面積は、肥料価格の高騰など生産費の増大にもかかわらず、販売価格の大幅な上昇により、本年度の農業者の純利益がここ10年平均を51%上回る920億ドル(9兆7,520億円)に達すると推測されることなどから、前年度を680万エーカー上回る(総作付面積は2億5,330万エーカー)水準になるものとされた。一方、2008年における食品の消費者物価は、前年の4%上昇に続き、全体でさらに3〜4%上昇するとの見通しが示された。

 また、その後行われた、畜産・燃料部門などの代表者による農産物市場動向に関する討論会では、エタノール産業の拡大と畜産業界における飼料コスト高の影響に多くの注目が集まった。この中で、RFAのロバート・ディニーン会長は、再生可能燃料産業界の課題としてセルロース系エタノール生産の開発の必要性を強調した上、トウモロコシ需給については、食品・燃料需要に見合った十分な量の供給が可能との見解を示していた。一方、全米最大の豚肉パッカーであると同時に、最大の養豚企業でもあるスミス・フィールド社のラリー・ポープ会長は、「現在の飼料価格の高騰は、家畜生産者にとって死活問題に関わる脅威となっている。エタノール生産を奨励することは、海外への石油依存度を縮小するためには価値があるかもしれないが、我々は今、食品のインフレ現象が表面化していることを認識する必要がある」と述べていた。

 今後、USDAによる主要作物の需給予測に関しては、3月末には米国内における生産者への意向調査に基づく主要農作物の作付予測が、また、5月上旬には2008年産の冬小麦の生産予測が公表される予定である。
米国における主要作物の需給動向については、国際的な需給に及ぼす影響も極めて大きいため、作物ごとの作付動向などには、引き続き関係者の高い注目が集まるものと考えられる。
米国における主要農作物の需給見通し
【唐澤 哲也 平成20年2月29日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
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