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米国最大手のブロイラー企業、生産の削減を公表

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 米国最大手のブロイラー生産企業であるピルグリム・プライド社は14日、本年度下半期(4月〜9月)の出荷量を約5%削減するため、今月初めからふ卵数を減らしていることを明らかにした。同社は、今年3月以降、ノースカロライナ州の生産施設の閉鎖、ペンシルベニア州の七面鳥生産施設の売却を相次いで公表しており、さらに今月9日にはアーカンソー州の生産施設についても閉鎖を含めた見直しの検討を行うとしていた。

飼料高騰下での収益性改善に向けて生産を削減

 今回の生産削減について、この3月に就任したクリント・リバース社長は、トウモロコシや大豆ミールなどの飼料原料のコストが前例のない高水準に達している現状を説明した上で、需給改善のためには工場閉鎖などの苦しい決断を行わざるを得ないとしている。

 また、政府の誤ったエタノール政策により飼料価格の上昇に拍車がかかり業界全体が危機に陥っているとするとともに、ごく最近になって米国の消費者も食品価格の高騰を通じてエタノール政策の真の影響を理解し始めていると述べ、エタノール使用義務量(再生可能燃料基準)の引き上げをはじめとする政府のエタノール支援策を批判している。

 さらに、ブロイラー業界は生産費を下回る価格水準を前提とする一部の需要に対して供給を継続できるような状況ではないと述べ、長期契約をたてに価格の引き上げ交渉に応じようとしない一部取引先への供給停止も辞さないことを示唆している。

飼料価格の上昇による資金負担の増大は業界の共通課題

 ピリグリム・プライド社は、飼料価格の上昇の兆しが現れ始めた2006年7月から2007年初めにかけて、3%から5%の生産削減を行うことを公表した上でこれを実行している。業界第2位のタイソン・フーズ社も生産削減を行ったため、その後、ブロイラーの卸売価格は上昇に転じ、2006年12月以降これまで前年を上回る状況が続いている。

 このような中、リバース社長は、想像を絶する飼料価格の上昇によりブロイラー業界の負担額が数十億ドル規模に上るとするとともに、業界10位〜20位の複数の中堅企業が相次いで生産削減を表明していることについて、規模の大小を問わず生産者にとっては飼料費の上昇が大きな資金的負担となっているとの認識を示している。

 その上で、一部の大規模生産者だけが需給改善の必要性を認識していた昨年とは異なり、生産削減を決めた企業が「今は生産削減を行うべき時という業界全体の共通認識がある」と発言したことを心強く思うとし、生産量を全体的に削減して需要量に合わせていくことが、業界全体が黒字に転換する上で重要であると述べている。

生産削減による需給調整を通じた価格引き上げは過去に経験済み

 ピルグリム・プライド社は、2007年1月にライバルのゴールドキスト社を買収し、米国第1位のブロイラー生産企業となった。2007年の国内生産量に占める同社のシェアは23.7%で、第2位のタイソン・フーズ社、第3位のパデュー・ファーム社の3社を合わせると米国の生産量の50%を超える。(ワット・ポートリー社調べ)

 本年1月末に四半期決算を公表した際、ピルグリム・プライド社は、二年連続で生産削減を行うことは困難だとしながらも、飼料価格の高騰に対応するためには販売価格の10%引き上げが必要だとして、需給改善に向けた生産削減の必要性に言及していた。

 また、タイソン・フーズ社が本年1月に四半期決算を公表した際には、飼料価格の上昇を受けて全ての出荷先に対して販売価格の7%引き上げを行ったことを明らかにするとともに、長期販売契約の見直しを行って飼料価格の動向に応じた販売価格の設定を行う契約に変更することを目指すとしていた。

米国のブロイラー生産は減少に向けた動きを開始

 米国農務省全国農業調査局(USDA/NASS)によると、米国の主要19州の週間ブロイラー向けふ卵数は、3週前(3月29日までの1週間)に約1年ぶりに前年を下回り、直近の1週間(4月12日までの1週間)は2億1,747万個と前年を0.9%下回っている。また、ひなの週間導入羽数も昨年4月以降前年を上回って推移してきたが、直近の1週間は1億7,859羽と前年の0.7%増にまで低下しており、近く、前年を下回ることは確実な情勢となっている。

 少数の大企業が食品供給の過半を担う構造については、米国内でもその是非をめぐって多くの異論があるところである。しかし、川上から川下までの垂直統合が進展していることにより、需給の変動や消費者の要求などの状況の変化に対する生産者の迅速な対応が可能となっていることもまた事実である。

 ブロイラー業界の生産削減の動きが、さらにもう一段の価格上昇につながっていくのか、あるいは順調に拡大してきた鶏肉消費の減退を招くことになるのか、今後の需給および価格の動向が注目される。
【郷 達也 平成20年4月17日発】
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