米国農務省、豚肉製品の栄養補助事業向け買い上げを公表
シェーファー農務長官は5月1日、米国農務省(USDA)が最大5千万ドル(約52億円:1ドル=104円)相当の豚肉製品を購入し、学校給食事業をはじめとする国内食料支援事業向けに無償提供する計画を公表した。
生産の急増による価格の低迷と飼料価格の高騰による生産費の上昇に苦しむ生産者は、関係団体や州政府などを通じて、政府に緊急支援対策の実施を求める動きを活発化させていた。
急激に悪化する米国の養豚経営の収益性
米国の養豚経営は、輸出市場の拡大を主な要因とする需要拡大に支えられ、これまで好調を維持してきた。
アイオワ州立大学の試算によると、米国最大の養豚州である同州の養豚一貫経営の収益性は、2004年初めに黒字に転じて以降2007年9月まで3年以上にわたって黒字が続いていた。
しかし、昨年末からの急速な肉豚出荷頭数の増加と飼料穀物価格の一段高により、養豚経営の収益性は急激に悪化している。同大の試算によると、2008年3月の一貫経営における肥育豚(出荷体重270ポンド≒122.5kg)生産費は146.32ドル/頭(15,217円)と前年を16.6%上回ったのに対し、肥育豚販売価格は109.67ドル/頭(11,406円)と前年を12.5%下回っており、繁殖母豚の残存評価額の下落も加味すると、肥育豚の出荷ごとに生産者は39.49ドルの損失を余儀なくされる状況にある。
本年2月には、米国最大の養豚企業であるスミスフィールド社が繁殖母豚の5%削減を公表し、また、カナダ政府が繁殖豚のとう汰に支援措置を講ずることを公表するなど、北米でも豚肉の需給改善に向けた動きは見られ始めている。しかし、昨年秋に正式承認を受けたサーコウイルスワクチンの効果により子豚の生産頭数が増加していることなどから、当面、米国の肥育豚生産頭数の増加は続く可能性が高く、多くの関係者は年内に養豚経営が黒字に転換する可能性はほとんどないと予測している。
関係者は連邦政府に対して支援を要請
経営環境の悪化に苦しむ生産者の要請を受け、4月の初めころから関係団体や州政府などは連邦政府に対して1935年農業調整法第32条に基づく緊急支援対策の実施を働きかけていた。農業調整法第32条は、前年の関税収入の30%を上限に、余剰農畜産物の買上げ・低所得者層向け放出や農畜産物の輸出支援などの実施を認める規定であり、近年は乳幼児向けの栄養支援や学校給食事業などにその予算の大半が振り向けられている。
これまで、3月8日に米国最大の総合農業団体であるファームビューローが、同17日にネブラスカ州のハイネマン知事が、同18日にミネソタ州のクロブッチャー上院農業委員が、それぞれ農業調整法第32条の適用による豚肉の買い上げを求めて、農務長官に対し書簡を発出したことを明らかにしていた。
また、同23日には、全米豚肉生産者協議会(NPPC)の役員と幹部職員がシェーファー農務長官に会い、政府の支援を求めて書簡を手交したことを明らかにしていた。この書簡の中でNPPCのブラック会長は、豚肉業界が苦況に陥った原因の大部分がトウモロコシと大豆ミール価格の暴騰にあると指摘するとともに、養豚業界が直近の7カ月間で21億ドル(約2,184億円)を失ったこと、生産者は肥育豚の出荷ごとに30〜50ドルの赤字となっていること、需給回復のために米国の繁殖母豚の1割に当たる60万頭をとう汰する必要があることなどを説明していた。その上で、当面の対策として、繁殖母豚由来の豚肉を原料とする豚肉ソーセージ5,050万ポンド(約22,900トン)をUSDAが総額5千万ドルで購入するよう求めるとともに、これが実行されれば163,579頭の繁殖母豚のとう汰につながるとしていた。
USDAは最大5千万ドルの豚肉製品の買い上げを公表
NPPCの要請から1週間後の5月1日、USDAは最大5千万ドル(約52億円)相当の豚肉製品を購入し、学校給食事業をはじめとする国内食料支援事業向けに無償提供する計画を公表した。
この中で、シェーファー農務長官は、「政府の食料支援対策は米国人の5人に一人が受給対象となっている。
食品価格の上昇を受けて、われわれは給付金を増額するともに、食料補助事業に満額の予算を確保するよう努力している。」と述べ、食品価格の高騰に苦しむ消費者対策として今回の対策が行われるという側面を強調している。その一方で、今回の事業が豚肉業界支援を目的としていることには全く触れておらず、また、この事業に基づく買い上げ方法についても、公開入札で事業者と契約を結ぶとされている以外、具体的な買い上げ対象などの内容は公表されていない。
政府の発表を受け、NPPCのブラック会長はこの決定を歓迎するとともに、「豚肉を追加で購入するというUSDAの行動は、米国の豚肉生産者、米国の経済、そして政府の様々な食品支援事業を頼りにしている市民のためになる。これはわれわれ豚肉業界が飼養頭数の削減を行い、需給の均衡を取り戻し、引き続き消費者に経済的で栄養に富む豚肉を供給できるようにする上での助けになる。」との声明を公表している。
なお、NPPCはこれ以外にも、生産者の飼料購入に対する緊急事業と債務保証を実施すること、環境面での負荷が少ない土壌保全留保事業(休耕)契約地の早期契約解除を違約金なしで認めて耕作地に戻すよう検討すること、USDAの市場アクセス事業および外国市場開発事業を通じて豚肉輸出を支援することなどを要請している。
【郷 達也 平成20年5月5日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
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