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米国議会、新農業法に関する両院協議会報告書を公表

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 米国議会は5月13日、新農業法に関する両院協議会報告書を公表した。この報告書は先に上下両院がそれぞれ可決していた農業法案を一本化するために開催されていた両院協議会の合意を受けて策定されたもので、最終農業法案として両院の本会議で採択・可決された後、大統領に送られて署名・成立を待つことになる。しかし、シェーファー農務長官をはじめとする政府側は、今回の最終農業法案が財政支出の増大を招き必要な改革を欠くものであるとの批判を続けており、今回の報告書の公表後にはついにブッシュ大統領が拒否権の発動を明言するなど、今後の農業法の行方はいまだ予断を許さない。

これまでの農業法審議の経過

 米国の農業政策の枠組みを決める包括農業法は、おおむね5年に1度改正される。現行の包括農業法は2002年農業安定・地方活性化法(P.L.107-171)であり、この中で、(1)作物プログラム(基幹農産品の価格・収入支持)、(2)農業金融、(3)農業環境保全、(4)調査研究開発、(5)地域振興、(6)国内外の食料支援などが定められている。

 今回の農業法の議論は、2007年1月に米国農務省が新農業法に関する政府提案を公表したころから活発化した。政府の提案は、現行の作物プログラムを改革する一方で、保全事業の拡充や再生可能エネルギーの研究調査の強化などを含む、「改革志向で財政責任を果たし、衡平で、予見可能で、国際紛争に備える(ジョハンズ農務長官)」ものであり、その公表時には、議会や関係者から一定の評価がなされていた。

 その後、議論の中心は議会に移り、2007年7月27日には下院で2007年下院農業法案(H.R.2419)が可決された。この法案は、現行農業法の根幹である作物プログラムの枠組みを維持しつつ、政府補助金の受給要件の厳格化などにより財政支出の拡大を防ぐことがポイントであった(海外駐在員情報平成19年7月31日号通巻第777号参照)。これに対し、上院では選出地域の違いによる関係議員間の利害対立や財政面での制約から農業委員会の動きが遅れ、上院農業法案(S.2302)の可決は年末の2007年12月14日にずれ込んだ。この法案は、これまで自然災害が生じるたびに別枠で措置されていた災害被害対策を農業法に組み込むとともに、エタノール混合燃料の製造業者に対する租税減免措置の変更などの税制措置も含むものであった。

 2008年の年明けからは、上下両院がそれぞれ可決していた農業法案を一本化するため、両院協議会の開催を前提とした舞台裏の交渉が活発化した。しかし、農業法本体の論争に加え、農業法の予算規模とその充当財源の確保の方法や、農業関係税制をめぐる委員会間の所管争いなどにより交渉は難航し、正式な両院協議会の開催は4月10日までずれ込んだ。この間、議会は2007年12月19日に可決した2008年包括歳出法の付帯条項として現行農業法を2008年3月15日まで延長したのを皮切りに、2008年3月12日、同4月16日、同4月24日、同5月1日と都合5度にわたって現行農業法の短期延長を行っており、現在は5月18日までその適用が延長されている。

農業法両院協議会合意の概要

 両院協議会で合意された新農業法案(2008年食料・保全・エネルギー法案)は、現行の農業関係事業の実施期間を2012年度まで延長するとともに、ベースライン(議会予算局が算定する10年間の予算執行見通し額)を約100億ドル引き上げることを大枠としている。下院農業委員会が公表した新農業法案の概要によると、低所得者向け食品供給補助など栄養事業の拡充に約104億ドルを増額し、農地保全や畜産環境保全対策など保全事業の拡充に約79億ドルを増額するほか、野菜・果実など園芸作物向けに新たに産地形成対策や疾病防除対策が措置されている。一方、作物保険の受託事業者に対する運営費補助や、作物プログラム向け補助、調査研究事業費などの予算額は削減されている。

 作物プログラムについては、価格支持融資(マーケティングローン)、価格変動対応支払い、直接固定支払いからなる枠組みを維持した上で、(1)小麦や大豆などの支持価格(ローンレートおよび目標価格)の引き上げ、(2)年収250万ドル以下だった補助金受給資格を年収75万ドル以下に厳格化、(3)2009年度から価格変動対応支払いに代わり新たに単位面積あたり収入変動対応支払いの選択を可能とするオプションを新設−などの変更を行っている。

 環境保全については、(1)土壌保全留保事業(CRP)の契約面積上限を現行の3,920万エーカーから3,200万エーカーに引き下げ(2010年度から)、(2)環境改善奨励計画(EQIP)の予算額を34億ドル増額し、一方で1事業当たり補助上限を引き下げ、(3)土壌保全奨励事業(CSP)の予算額を11億ドル増額して補助対象面積を拡大するとともに、森林を事業対象に追加−などの変更を行っている。

 エネルギー関係については、全体で約10億ドルの予算増額を行い、商業的規模の先進的バイオ燃料精製施設の建設・改築を行う事業者への借入保証や、農場段階で再生可能燃料生産利用設備を導入する場合の補助・融資などを措置するとしている。また、税制関連では、(1)2008年末で失効する予定だった54セント/ガロンの輸入エタノール関税を2010年12月31日まで2年延長、(2)エタノール混合燃料の製造業者に対する51セント/ガロンの租税減免を2009年1月1日からから45セント/ガロンに減額、(3)農業廃棄物など非食用資源を原料とするエタノール製造業者に対する2012年までの租税減免措置を新設−などが行われることになる。

 この他、前述の恒久的災害被害対策として、2011年度末までに関税を財源とする38億ドルの基金を造成し、農務長官が指定する被災地域の作物生産被害対策や、干ばつ観測に基づく著しい干ばつ地域の畜産農家補助などに利用することが盛り込まれている。

酪農・畜産関係の規定のポイント

 酪農関係政策では、加工原料乳価格支持制度(9.90ドル/生乳100ポンド)の内容を実質的に維持した上で、主要乳製品の支持価格を直接設定する制度に変更したことがWTO交渉との関係から注目される。
支持価格はチェダーチーズ(ブロック)が1.13ドル/ポンド、バターが1.05ドル/ポンド、脱脂粉乳が0.80ドル/ポンドに設定されているが、12カ月連続で保管在庫量が一定水準を超えた場合は農務長官が買入価格を引き下げられるとしている。

 また、生乳所得損失契約事業(MILC)については、現行の規定を2012年まで延長した上で、2008年10月1日から2012年8月31日までの間に限り、(1)補助率を現行の36%から45%に引き上げ、(2)助成対象乳量を現行の240万ポンドから298.5万ポンドに引き上げ(搾乳牛120頭から165頭への引き上げに相当)、(3)全米平均乳牛飼料費が生乳100ポンド当たり7.35ドルを上回った場合、生乳100ポンド当たり16.94ドルの基準価格を飼料費の上昇率に応じて調整−といった特別規定を適用するとしている。

 さらに、牛乳乳製品の販売・研究促進事業の原資に充てるチェックオフ(生乳生産者賦課金)の支出対象に海外市場開発を加えるとともに、徴収対象をハワイやアラスカなどの地域の生乳(生乳100ポンド当たり15セント)や輸入乳製品(生乳100ポンド相当重量当たり7.5セント)に拡大するとしている。
このほか、連邦生乳マーケティングオーダーの規則改正手続きを迅速化する規定、生乳出荷者が乳業者と飲用向け以外の生乳の事前契約取引を継続することを認める規定、乳製品輸出奨励事業(DEIP)を2012年12月31日まで延長する規定などが盛り込まれている。

 一方、畜産関係については、2008年9月30日から牛肉、豚肉、鶏肉など主要食肉に原産地表示を義務づけ、4分類(米国産、複数国産、外国肥育米国と畜、外国産)のいずれかの表示を行うこととされている。(7月15日以前に輸入された素畜は米国産と見なす特例あり。)また、米国農務省穀物検査・家畜食肉流通局(USDAS/GIPSA)による食肉処理業者の査察の強化とその業務報告の議会提出の義務づけ、家畜の長期出荷契約締結時における出荷先企業による義務的調停規定の強要の禁止、汚染食肉の出荷を認識した工場による農務長官への即時通報の義務化などが盛り込まれている。なお、新たに農業法上の項目として「畜産」の章を設けることも定められている。

政府の反応と今後の動向

 今回の報告書の公表を受け、全国ファーマーズユニオンが呼びかけ人となって集めた今回の農業法案への支持表明声明には、米国ファームビューロー協議会、全米トウモロコシ生産者協会などの主要農業団体のほか、農業金融関係団体、環境保護団体、さらには栄養補助支援団体なども名を連ねており、署名数は557団体に上っている。一方、畜産関係では全国生乳生産者協議会が署名に加わっているものの、全米肉用牛生産者・牛肉協会、全米豚肉生産者協議会、全米鶏肉協議会、米国食肉協会などの主要食肉関係団体はこの声明に署名しておらず、穀物価格の上昇の一因となっているエネルギー政策の延長に対する根強い抵抗姿勢がうかがえる。

 一方、ブッシュ大統領は今回の農業法案を受けて、直ちにその内容を強く批判する声明を公表している。特に、農家経済が極めて好調な状況下で、夫婦で年収150万ドルを稼ぐ富裕農業者にも補助金が交付されること、農業法の予算増加額は議会の主張する10年100億ドルではなく実際には約200億ドルであること、10年間の農業予算総額が約6000億ドルの巨額に上ること、食品価格の高騰の中で主要作物の価格を引き上げ貿易わい曲性を高めていることなどを問題点として挙げている。その上で、この法案が議会を通過した場合には拒否権を発動すると明言し、議会に対して現行法を1年以上延長するよう求めている。

 議会が可決した法案に大統領が拒否権を発動した場合、上下両院それぞれが2/3以上の票で再可決すれば、拒否権を覆して原案どおりの農業法が成立することになる。米国の上院は人口数にかかわらず50州に2人ずつの議員が配分されており、比較的地域の声が反映されやすいため、この2/3の賛成票を集めることはほぼ確実と見られている。これに対し、米国の下院は人口比によって2年の選挙ごとに州別の定員数が変更されるため、人口が集中する都市部の意見が反映されやすく、上院に比べると農業法に2/3の賛成票を得ることが難しいというのが当地の定説である。農業予算の7割以上を都市部の低所得者層が受益者となる栄養補助事業に振り向けたこの法案が大統領の拒否権を覆すことができるのかどうか、今後の農業法の動向はいまだ予断を許さない。
【郷 達也 平成20年5月13日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 03-3583-9532 (担当:藤井)
Tel:調査情報部 調査課



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