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米国農務省、休耕地契約の早期解除に係る違約金免除措置は実施しない方針

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畜産団体などは飼料価格対策の一環としてCRP用地の解放を期待

 シェーファー米農務長官は7月29日、土壌保全留保計画(Conservation Reserve Program:CRP)の早期契約解除に係る違約金の免除措置を、2008会計年度(2007年10月〜2008年9月)においては実施しない方針であることを公表した。

 CRP事業は、環境保全政策(Conservation)の一環として85年農業法により創設され、土壌流出の防止や野生動物の生息地の確保などを目的に、農業者が政府と一定期間(10〜15年)において、特定の農地を草地や林地などへ転換(休耕)する契約を結ぶことにより一定の補助金を受けるものである。同事業には本年6月末現在、米国の作物耕作地の約1割に当たる3,461万エーカー(1,401万ヘクタール、1ヘクタール=0.407エーカー)の農地が登録されている(2007年9月末現在に比べ216万エーカー(87万ヘクタール)減)。

 米国のトウモロコシ価格は本年初頭以降、2007年末のエネルギー法改正による再生可能燃料使用基準(RFS)の引き上げ、また、6月初旬から中旬にかけての米中西部を襲った大規模な洪水の影響など需給両面からの要因により騰勢を強めていた。これに対し、主要畜産団体などは、飼料価格対策として、(1)CRP用地の解放、(2)RFSの引き下げ、(3)エタノール混合燃料の製造業者に対する租税減免措置(1ガロン当たり51セント)やエタノール輸入関税(1ガロン当たり54セント)などエタノール振興施策の削減−を求めていた。中でも、当地業界関係者の間では、CRPの早期契約解除に係る違約金免除措置の実施が最有力と見られていたことから、今回のUSDAの同措置に関する決断には注目が集まっていた。

今回の違約金免除措置未実施の決定は主要作物の作柄回復と価格低下が主な要因

 同農務長官は7月29日に行った記者団との電話会見の中で、今回、CRPの早期契約解除に係る違約
金の免除措置を実施しない方針を決定した主な要因として、(1)最近の作物の作柄状況に関する調査結果、(2)天候状態、(3)主要作物の作付け・価格動向−を挙げた。

 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が毎週はじめに公表する主要生産州における作物の作柄状況に関する報告書を見ると、主要18州における6月末現在のトウモロコシと大豆の作柄状況は、「優」(Excellent)と「良」(Good)の合計がトウモロコシで61%、大豆で58%と、それぞれ前年同期を約10ポイント下回っていたものの、7月27日現在では、トウモロコシが前年同期比8ポイント増の66%、大豆が同4ポイント増の62%と、ともに前年を上回る水準まで回復している。

 また、この作柄状況の回復やここ数週間主産地で作物の生育に適した天候が続いたことなどから、7月上旬まで上昇を続けていたシカゴ商品取引所(CBOT)のトウモロコシ・大豆価格(期近価格)は、それぞれ同月中旬以降下落局面に転じ、8月1日には、トウモロコシで前月同日比154.50セント安(1ブッシェル当たり5.65ドル)、大豆で同270.25セント安(同13.58ドル)まで続落している。

 さらに、同農務長官は、長期的な要因として、本年5月末に成立した新農業法でCRPの対象面積の上限が、従来の3,920万エーカー(1,586万ヘクタール)から3,200万エーカー(1,295万ヘクタール)に引き下げられたこと(2010年度以降)を挙げるとともに、2010年9月までに合計930万エーカー(376万ヘクタール、本年9月末で110万エーカー、2009年9月末で380万エーカー、2010年9月末で440万エーカー)の契約切れとなる農地があるため、仮に、これら農地の契約者が延長手続きを行わなかった場合には、CRP用地の多くで作物の作付けが可能となるとの説明を行った。

 なお、同農務長官はこの会見の中で、USDAが先に公表したCRP用地における家畜放牧等の容認措置に対する米連邦控訴裁の決定との関連性についての質問に対しては、今回の違約金免除措置の決定とは全く別個の問題として認識していることを強調した。

豚肉生産者団体はCRP用地の解放なしに豚肉産業の拡大は不可能と失望感を表明

 今回のUSDAによるCRPの違約金免除措置未実施の決定を受け、全国豚肉生産者協議会(NPPC)や全国穀物飼料協会(NGFA)などは、深い失望を表明する声明を公表した。

 NPPCは7月29日、米国の豚肉生産者は本年初め以降、家畜飼料の供給ひっ迫および価格高騰により、肉豚1頭当たり平均20ドルの損失を余儀なくされているとし、今回の決定が米国の豚肉産業にとって悪影響を及ぼしかねないとの懸念を強めている。NPPCのブラック会長は、「われわれは、今後数カ月間、肉豚の飼養頭数および生産量を1割程度縮小する意向であるものの、2009年には、エタノール向けをはじめとするトウモロコシ需要のさらなる拡大に対応するため、より多くの作付け地が必要になるものと考えられる。このような中、CRP用地の解放なしには、世界的な需要に対応するため米国の豚肉産業を成長させることは不可能である」と述べた。

 また、NCGAは同日、CRP用地の早期解放は、穀物・油糧種子市場が現在直面している供給ひっ迫を緩和させるため必要な措置であることを強調するとともに、「米国は、穀物や油糧種子に対する世界的な需要増大をもはや無視することは出来ず、天候状態に依存し続ける政策対応は賢明とは言えない」とし、今回のUSDAの決定を批判する声明を公表した。さらに、NCGAはこの声明の中で、「仮に、2008年産のトウモロコシの単収が、平年の傾向に比べ7.5%減少した場合には、同年度(2008年9月〜2009年8月)の期末在庫量は、USDAの従来の予測(7/11現在の予測では前年度比48%減の8億3,300万ブッシェル(2,115万トン))の約半分程度の水準(4億5,600万ブッシェル(1,158万トン))まで落ち込む可能性がある」との警告を発している。

 USDAでは、今後、8月12日に公表予定の主要作物生産動向報告書の中で、同省NASSが7月に洪水被害地域を中心に実施した、トウモロコシや大豆などの作況に関する再調査結果を初めて盛り込むこととしており、米国のトウモロコシをはじめとする飼料作物の生産および価格動向には引き続き注視が必要となってくる。
(注) USDAは5月末、飼料価格の高騰による畜産部門の負担を軽減するため、CRP契約地の一部で、家畜の放牧や乾牧草の収穫を一定条件の下容認する措置を講じた。しかし、米連邦控訴裁判所(第9巡回区)は7月22日、全米野生動物基金協会による環境への影響などを理由とした同措置の取り消しの申立てを受け、同措置を制限する判決を下した。
【唐澤 哲也 平成20年8月1日発】
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