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大規模畜産経営に対する環境規制適用除外措置をめぐる議論が再燃

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 米国政府説明責任局(GAO)は9月4日、大規模畜産経営に対する環境規制のあり方に関する報告書を公表し、米国環境保護庁(EPA)に対して、大規模畜産経営(CAFO)から排出されるふん尿の現状について情報を収集し、規制の適用に向けた戦略を構築するよう勧告を行った。

 これを受けて24日に開催された下院エネルギー商務委員会環境・汚染物質小委員会の公聴会では、米国農務省(USDA)のマーク・レイ自然資源・環境担当次官が一律の規制強化は不要と主張したのに対し、GAOのアン・ミッテル自然資源・環境担当課長は改めて畜産経営に対する環境規制を求める主張を行っており、政府部内での意見の食い違いが明らかになっている。

米国の畜産環境規制の現状

 米国の環境規制は、水質汚濁の防止と大気汚染の防止の二つを大きな柱としている。

 水質汚濁防止のための規制は水質保全法(Clean Water Act)を根拠として行われている。この法律により、CAFO(1000家畜単位以上の家畜を飼養する放牧経営以外の畜産経営)は点源汚染源に指定されており、連邦規制の下にある地表水(航行可能な地表水)に汚染物質を排出する場合は、EPAまたはその委託を受けた州政府から全国汚染物質排出防止システム(NPDES)に基づく許可を受けることが義務づけられている。

 1976年の規制開始当初は、25年に1度の暴風雨が来ない限り汚染物質の漏出が防げるよう設計された施設や、排せつ物の処理に水を使用しない家きん飼養施設などは、許可取得義務が免除されていた。また、家畜ふん尿を耕地や草地に施用する場合の規制も実質的には行われていなかった。

 その後、2003年2月の規則改正により、例えば25年に1度とされていた漏出事故の容認基準が100年に1度に引き上げられるなど、許可取得義務の免除を受けるための条件が厳しくされた。また、家畜ふん尿の農地への施用による汚染を最小にするため、小川との距離の確保やラグーンへの深度計の設置などを定めた最善管理行動指針を実行することや、家畜ふん尿や畜舎排水の処理方法を定めた包括的栄養分管理計画(CNMPs)を作成して実行することなども定められた。
しかし、当初2006年内に設定されていた新たな規則の下でのCAFOの認可申請期限やNMPsの作成・実施期限は、2007年7月に2009年2月末まで先延ばしされている。(平成19年8月4日海外駐在員情報第778号参照

 大気汚染の防止のための規制は、大気汚染防止法(Clean Air Act)、1980年包括的環境対応・賠償・負担法(CERCLA。通称スーパーファンド法)および1986年緊急対策・地域情報入手権利法(EPCRA)を根拠に実施されている。

 大気汚染防止法はEPAに汚染物質の放出源を規制する権限を認めるもので、特に基準値を超える規制汚染物質の発生源に対する管理の側面を重視している。したがって、基準値を超える大気汚染物質を放出している事業者は、すべてこの規制の対象となる。

 スーパーファンド法と緊急対策・地域情報入手権利法は、大気中への危害物質の放出量が報告義務数量を超えた場合に、当局および一般市民に注意を呼びかけるため、施設の保有者または操業者にその事実を連邦政府や州政府へ報告するよう義務づけるものである。畜産経営から放出される報告対象の危害物質には硫化水素やアンモニアがあるが、いずれも24時間放出量が100ポンド(45.36kg)を超えた場合に報告義務が生じ、仮に報告を怠ると1日当たり32,500ドルを上限に罰金が科される。

 これらの規制は、水質保全のための規制とは異なり、大規模畜産経営を点源汚染源として特定しているわけではない。
しかし、汚染物質の放出があれば放牧経営でも規制の対象となるため、米国の畜産関係団体はかねてより家畜ふん尿に由来する汚染物質を規制の対象から除外するよう求めており、第110回国会(2007年〜)においても上下両院でこの主張を踏まえた法案が提出されている。

 このような動きを踏まえ、2007年12月28日にEPAは「農場における家畜ふん尿からの危害物質の放出」を法律に基づく報告義務の対象外とする規則案を公表した。この規則案に対する意見提出は2008年3月27日で締め切られたが、州政府などから例外措置を認めるための実態把握が不十分だとする意見が提出されるなど反対意見も多く、現時点で最終規則は公表されていない。

GAO報告書の概要

 今回、GAOが公表したCAFOへの環境規制のあり方に関する調査報告書においては、以下の5つの論点について、EPAのこれまでの取り組みについて事実関係の認定を行っている。

(1) 時間の経過に伴うCAFOの構造変化:USDAによると大規模畜産経営の総数は1982年から2002年の間に約230%増加し、大規模経営の家畜飼養頭数も増加しているが、CAFOに焦点を当てた正確なデータは存在しない。また、EPAは認可済のCAFOの総数すら把握していない。EPAは現在、州政府と協力して全国規模のデータベースを構築しようとしているが、現時点ではCAFOへの環境規制を効果的に行う上で必要な情報は存在しない。
(2) CAFOで発生する廃棄物の量:大規模畜産経営から発生するふん尿の量は、最大で年間160万トンに達し、都市における年間し尿発生量を上回る場合もある。また、特定の地域に大規模経営が密集した場合、肥料として近隣の耕地に効果的に施用できないほど大量のふん尿が発生し、水質汚濁を招く潜在的可能性が高まると指摘する専門家もいる。
(3) 健康や環境への影響に関する研究成果:2002年以降に行われた68本の政府系の研究のうち、15本で家畜排せつ物由来の汚染物質と健康または環境への悪影響との直接の因果関係を認めている。EPAがこれらの汚染物質の危険性評価を行っていないのは、畜産経営から排出される汚染物質の量に関する重要なデータがないためである。
(4) CAFOの大気汚染物質放出手続きの策定に向けた取り組み:2007年から大気汚染物質の放出に関するモニタリング調査が業界負担で全国的に行われているが、CAFOの大気汚染物質放出手続きを策定するために必要な科学的かつ統計学的に有効なデータは得られそうにない。また、EPAは、畜産経営におけるすべての排出源の相互作用や波及効果を考慮した高度で段階を踏んだモデルを開発するための戦略や時間的枠組みを定めていない。
(5) CAFOの水質汚濁物質放出規制に裁判所判決が与えた影響:2005年の「水質管理人」判決では、2003年の規則改正のうち、汚染物質を放出していないCAFOにも許可の取得を求めた点がEPAの権限を超えていると判断され、その実行停止が命令された。また、2006年の「レパノス」判決では、水質汚濁物質が連邦規制の下にある地表水を汚染しない限り、排水行為そのものが水質保全法に反するとは言えないと判断され、地表水汚染の挙証責任がEPAにあるとされた。これらの判決により、EPAがCAFOに対して規制を適用することが一層困難となった。

 これらの事実認定を踏まえ、GAOはCAFOによる環境汚染を効果的に規制する観点から、EPAに対して、(1)認可CAFOの一覧を完成させること、(2)現在の全国的な大気汚染物質放出調査の内容を再検討すること、(3)CAFOからの大気汚染物質の放出量を測定する実務的なモデルを開発するための戦略や時間的枠組みを定めること−を勧告している。

下院で開催された公聴会で政府内のあつれきが表面化

 これを受けて24日に開催された下院エネルギー商務委員会環境・汚染物質小委員会の公聴会において、米国農務省(USDA)のマーク・レイ自然資源・環境局(NRCS)担当次官は、畜産経営の大半は環境保全に向けて適切に対応しているとし、GAOの報告書案には間違った推計や、不完全な情報や、出典の不明確な引用など多くの誤りがあるとして、具体的な事例を挙げて報告書の問題点を指摘した。

 また、同次官は、USDA/NRCSが2007年に農業者と畜産業者に対して、家畜ふん尿管理に関する包括的栄養管理計画(CNMPs)の策定について5,100件、また、その適用について4,400件の支援を行った実績があるとし、2002年以降の累計では、支援を受けて策定されたCNMPsの総数は33,600件、その適用数も21,400件に上ることを明らかにした。

 さらに、同次官は、USDAとEPAとパデュー大がさらに迅速で的確なCNMPsの策定を可能とするよう密接に連携しているとした上で、産官学が協調して行ってきた活動の実績が示すとおり、推進事業を通じた自主的な保全活動は大きな成功を収めており、規制の拡大が常に必要とは限らないと主張した。

 これに対し、GAOのアン・ミッテル自然資源・環境課長は、連邦政府にはCAFOについて整合的で信頼できるデータを集めている機関がないとするとともに、EPAには影響の範囲を評価する上で必要なデータが欠如しており、必要なデータを収集するための計画も限定的であると証言した。

 また、同課長は、農場の家畜ふん尿から大気中に放出される危害物質の報告義務を免除する2007年12月28日公表のEPA規則案について、劇的な産業構造の変化により、極めて大きな農場が非常に多数の家畜を飼養してばく大な量のふん尿を発生させている状況の下では、農場を小さな放出源と考えてきたこれまでの固定観念はもはや通用しないとして、これに反対する考えを明らかにした。

 一方、EPAのスーザン・パーカー・ボーディン固形廃棄物・緊急時対応室担当局長補は、畜産経営に危害物質の放出報告義務免除を認める規則案の最終確定に先だって、EPAがこれ以上の情報を集める予定はないと証言するとともに、現時点で規則案の最終確定日は決定していないと説明している。

 米国議会は、大統領選挙と同時に行われる議会議員選挙で、下院の全議席と上院の1/3の議席が改選される。公聴会では、単純に畜産経営に対する環境規制の強化を主張する意見だけでなく、大規模企業経営と家族経営とで異なる環境規制を適用することを前提とした意見も出されるなど、議員の主張の間にも微妙な立場の違いが現れている。これまでほとんど議論が行われてこなかった大規模畜産農家に対する環境規制の問題が、あえてこの時期に議会で取り上げられたことについて、環境規制の強化に反対の立場をとる当地の食肉団体関係者は、伝統的に環境規制の強化や小規模農家への配慮を主張している民主党の選挙向けのパフォーマンスだろうと冷ややかな目を向けている。
【郷 達也 平成20年10月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
Tel:03-3583-9532



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