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米国農務省、2009年の国際牛乳乳製品需給・貿易に関する予測を公表

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 米国農務省海外農業局(USDA/FAS)は12月23日、世界の牛乳乳製品の生産と国際貿易の動向に関する予測を公表した。これによると、2009年は主要国の大半で生乳生産量が増加し、特にチーズを中心に乳製品の生産が増加すると予測している。その一方、2年に及んだ乳製品価格の高騰や直近の金融危機に加え、特にアジア市場では中国のメラミン問題の余波などから需要は伸び悩むと分析しており、乳製品の価格は総じて弱含みで推移すると予測している。

2009年の生乳生産量は主要国の多くで前年を上回ると予測

 世界の生乳生産量は、EU27カ国、米国、インド、中国の上位4カ国で世界の半分以上を占めており、ロシア、ブラジル、ニュージーランドがこれに続いている。

 世界最大の生乳生産地域であるEUでは、生産枠の拡大により2008年の生産量は1.1%増加するものの、2009年については生乳価格の下落と輸出収益性の低下により、生産の伸びは0.3%にとどまるとしている。また、EUに次ぐ生産国である米国では、脱脂粉乳など乳製品の価格急落により乳価が下落して酪農経営の収益性が悪化していることから、2009年については1頭当たり乳量の増加分に相当する0.9%の生産増にとどまると予測している。

 これに対し、近年、急速に生乳生産を拡大して輸入国から輸出国に転じたブラジルについては、ブラジル・レアル安により全粉乳を始めとする乳製品の輸出競争力が増すことから、2009年の生乳生産量が前年比5.0%増加するとしている。アルゼンチンについては、2008年の初めに政府のインフレ抑制政策により27.5%相当の輸出税が課せられるなど政策による需給への影響が大きいが、2009年は飼料価格の下落などにより生乳生産量が3.0%増加し、同国の主要輸出品目である全粉乳の輸出が前年比22.0%増の15万トンになると予測している。

 オセアニアのうち、2008年度(2007年7月〜2008年6月)に干ばつのため大きく生産量を減らした豪州については、2009年度に入って主要地域の牧草の生育状況こそ回復したものの、乳牛資源が十分に回復していないことやかんがい用水の不足が続いていることなどから、生産の増加は1.8%にとどまるとしている。一方、同様に干ばつの影響で2008年度(2007年6月〜2008年5月)の生産量を3.2%減らしたニュージーランドについては、乳価の上昇による収益性の好転で2008年後半に330戸・16万5千頭の新規就農があったことなどから、2009年度の生産量は8.0%増加すると予測している。
(表1)主要国の生乳生産量

チーズの生産は引き続き増加するものの、米国からの輸出は減少へ

 世界のチーズ生産量は、EU27カ国、米国の2カ国で全体の半分強を占め、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、豪州、ニュージーランドがこれに続いている。一方、世界の輸出量はEU27カ国、ニュージーランド、豪州、米国の順であり、この4カ国で全体の6割以上を輸出している。

 EUのチーズ生産量は2008年の前年比1.2%増に続き、2009年についても0.4%増加するが、域内の消費拡大によりその大半が吸収され、輸出量は2008年並みになると予測している。しかし、オセアニアや米国産との競合に加え、域内の在庫水準も比較的高いため、チーズ価格の下落を予想する乳業者や輸出業者の間には輸出補助金の再開を求める声が出始めている。

 米国については、バターや脱脂粉乳向けの生乳がチーズ向けに振り替えられるため、2009年の生産量は2008年に比べて2.9%増加すると予測している。輸出については、2008年は国内消費の不振もあって12.5万トンと記録的数量に達したが、2009年は国際需要の低下により19.2%減になると予測している。一方、2003年以降減少傾向にあるチーズの輸入量は、前年比16.2%減となった2008年から、2009年はさらに3.0%減少するとしている。

 ニュージーランドの生産量は、2008年度は干ばつの影響で1.9%増にとどまったが、2009年度については9.9%の大幅な増加を予測しており、これに伴って、輸出量も14.8%増加すると見込んでいる。2008年度における最大の輸出先は日本であり、次いで豪州、韓国の順となっているが、米国向けの輸出は2006年以降減少が続いている。

 豪州については、2009年度の生産量は前年度比1.7%増が予想されるが、2008年度には4.4%減となっており、その回復は遅れるとしている。なお、国内消費の伸び悩みもあり、2009年度の輸出は2.0%増と予測している。
(表2)主要国のチーズ輸出量

脱脂粉乳の国際価格は米欧の為替動向と政策の影響次第

 世界の脱脂粉乳生産量は、EU27カ国、米国、ニュージーランド、豪州に加え、インド、メキシコ、日本なども比較的多いことが特徴である。これに対し、輸出量についてはEU27カ国、米国、ニュージーランド、豪州の4カ国で全体の4分の3前後を占めており、チーズに比べて国際的な寡占の色彩が濃い。また、主要輸入国がインドネシア、メキシコ、フィリピン、アルジェリアなど新興経済国であることも特徴である。

 2009年における主要国の脱脂粉乳輸出量について、USDAは米国からの輸出が減少する一方で、EUとオセアニアからの輸出が増加するため、全体としては2008年並みになる公算が高いとしている。また、輸入需要についても、アルジェリアやメキシコなど国内の栄養補助事業に多くの脱脂粉乳を利用している主要輸入国の需要環境に変化がないことなどから、底堅いと予測している。

 一方、脱脂粉乳の価格については、2008年上期はオセアニアの干ばつにより高止まりしていたが、7月以降、EU域内の在庫の増加と米ドル高によりドルベースでは急落している。

 現在、米国では商品金融公社(CCC)により脱脂粉乳の買入れが行われており、USDAは2008年に4.3万トン、2009年には7万トン前後が市場から隔離されると予測している。オセアニアからの脱脂粉乳輸出量が減少しない限り、現時点では、米国の脱脂粉乳買入価格の80セント/ポンド(約1,764ドル/トン(16万2千円/トン:1ドル=92円))が実質的な国際価格の底値になっている。

 しかし、EUが2009年3月から予定どおり1,746ユーロ/トンの支持価格の適用を開始した際に12月に入って急激に進んだドル安水準が続いていれば、実質的な国際価格の底値はEUの支持価格に相当する約2,450ドル/トン前後に上昇することになる。一方、仮に為替が再びドル高ユーロ安に振れたり、あるいはEUが脱脂粉乳への輸出補助金交付を再開したりすれば、引き続き低水準の価格が続く可能性が高い。USDAは、今後の動向については為替や政策の動向など不確定要素が多いとしている。

 なお、バターについては、世界最大の生産国であるインドがほとんど貿易を行っておらず、脱脂粉乳と同様にEU27カ国、米国、ニュージーランド、豪州の4カ国で輸出量全体の7割前後を占めている。2009年については、2008年に大きく輸出を減らしたEUで28.0%の増加が見込まれる一方、価格の上昇により2008年の生産と輸出を大きく増やした米国では、生産が1.5%、輸出が42.9%減少すると見込まれている。
(表3)主要国の脱脂粉乳輸出量
(表4)主要国のバター輸出量
【郷 達也 平成20年12月24日発】
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