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国際金融危機の影響で一部牛肉パッカーが経営危機に直面(ブラジル)

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 2008年9月の米国に端を発する国際金融危機の影響で、ブラジルの牛肉主要輸出国であるロシアやベネズエラなどへの輸出が減少したことに加え、安価な鶏肉消費の増加などにより国内の牛肉消費が不振となったことから、これまで積極的に経営規模の拡大を行ってきた一部牛肉パッカーは、経営危機に直面している。

国内第4位の牛肉パッカーが会社更生法の適用を申請

 ブラジル国内第4位の牛肉パッカー・インデペンデンシア社は、2008年11月に赤字経営が続いているマット・グロッソ・ド・スル州カンポグランデ工場の操業を停止したことに続き、2009年2月25日にはすべての工場(10工場)の操業を停止し、翌26日に本社所在地のカジャマル地裁に司法回復法(会社更生法に相当)の適用を申請した。その後、ゴイアス州、マット・グロッソ・ド・スル州、マット・グロッソ州およびサンパウロ州の7工場と配送センターを閉鎖し、同社の総従業員数1万2,000人の約52%に相当する6,200人を解雇した。なお、同社は司法回復法の適用申請日から60日以内に保有する資産、債務および従業員数などに関する報告書の地裁への提出が義務付けられている。

 インデペンデンシア社は2007年に14億レアル(約638億4,000万円、1レアル=45.6円)を売り上げるなどの順調な経営成績を上げ、さらに2008年には新規に取得した6工場が稼働し始めたことから、1日当たりの牛のと畜能力は1万800頭と業界第3位のベルチン社とほぼ肩を並べた。このため、同年の販売高は前年比64.0%増の23億レアル(1,049億円)と予測され、さらに2009年にはトカンチンス州に1億5,000万レアル(68億4,000万円)を投じて新規工場の建設を計画するなど牛肉パッカーの中では最も健全経営の企業の1つとして広く知られていた。

既に6社が会社更生法の適用を申請

 国内の牛肉パッカーは、既に中小規模のフリゴエストレイラ社(1日当たりの牛のと畜能力は1,500頭、以下同)、マルジェン社(6,000頭)、クアトロマルコス社(7,200頭)、マザルト社(900頭)およびアランテス社(7,300頭)が司法回復法の適用を裁判所に申請しており、インデペンデンシア社は牛肉ペッカーとして6社目の同法の適用申請となったが、この6社以外にも11社の牛肉パッカーが経営難にあるとみられている。

 2008年11月から2009年2月のブラジルの牛肉輸出(枝肉べース)は、数量で前年同期比25.4%減の約45万5千トン、金額で同26.2%減の約10億3,800万ドル(約1,042億円、1ドル=100.4円)となった。また、サンパウロ市における枝肉1キログラム当たりの卸売価格は、2008年10月の5.7レアル(260円)から2009年2月には4.85レアル(221円)となった。業界団体によると、この価格は肉牛の生産コストを15%下回るものであるとしている。

 なお、3月の輸出は数量で前年同月比0.1%減の14万6,000トン、金額で同10.4%減の2億9,700万ドル(298億円)となり、依然として前年水準を下回ったものの、回復の兆しも見受けられる。
牛肉輸出量および金額
サンパウロ市の牛枝肉卸売価格

政府は100億レアルの融資を実施へ

 このような状況を憂慮したルーラ大統領は、3月4日に開催された経済関係閣僚と銀行代表との会談において、「牛肉パッカーの経営の悪化がさらに深刻化した場合には、全国の零細・小規模畜産農家を危機の淵に追い詰めるような事態になると同時に、主要輸出品目の1つである牛肉産業の今後の発展が阻害される。」と述べ、牛肉パッカーに対する資金面での支援を政府系銀行の首脳に命じた。

 これを受け、国家通貨審議会(CMN)は4月16日の臨時会議において、食肉処理業の救済措置を含む農畜産業救済措置として、126億レアル(5,746億円)の予算を措置した。そのうち、100億レアル(4,560億円)が牛肉パッカーなどの農業関係企業、農業機械・機器工業、農協および農家に対する運転資金として融資される。融資元は社会経済開発銀行(BNDES)であり、金利は年率11.25%、返済は1年据え置きの2年払いとなっている。なお、残りの26億レアル(1,186億円)は、バイオエタノールの貯蔵のための融資プログラムなどに使用される。

世界最大規模の食肉パッカー、JBS-FRIBOI社はサンパウロ州内で生産を拡大

 しかしながら、このような状況の中で、世界最大規模の食肉パッカーであるJBS-FRIBOI社は、サンパウロ州バレットス市で2000年の創業以降9年間利用している工場の生産拡大のため、4月中に887人を新規に雇用する計画である。これにより同工場の牛のと畜能力は1日当たり1,200頭から1,500頭に増加することになるが、今年中には2,500頭にまで増加させることを目標としている。バレットス工場を含む生産体制の拡張は、同社が金融危機の下、複数の企業が淘汰された牛肉市場へのさらなる進出を図る戦略とみられている。同社は、「牛肉生産の拡大は国内市場への供給を継続し、雇用を維持し、牛の生産、牛肉加工、消費者への小売にまで至る牛肉産業全般の強化並びに牛肉業界における同社のシェア拡大を目的とするものである。」との声明を発表している。
【石井 清栄 平成21年4月20日発】
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