アルゼンチンにおける養蜂の現状
アルゼンチンでは、はちみつの対日輸出が増加傾向にあることから、養蜂の現状について、業界団体に聞き取りを行ったので以下のとおり報告する。
1 生産者数などについて
現在の生産者数は3万人であり、飼育規模は300万群である。たいていの生産者は5〜10カ所の養蜂場を所有しており、1カ所で50〜100のハチの群を飼育する。一つの群は、冬季には1万〜15,000匹、夏季には4万〜5万匹となっている。
アルゼンチンでは、ハチが5年前に比べ3割程度減少している。その原因は、近年の降雨不足による農作物の成長不良やGM大豆の作付け拡大による農薬散布の増加、ミツバチの疾病の発生などと言われているが不明である。なお、一部の生産者を除いて、同国では定置養蜂である。
2 生産地域について
ブエノスアイレス州、サンタフェ州、エントレ・リオス州、メンドーサ州、コリ エンテス州、ラ・パンパ州などが主要生産地域である。ミシオネス州やフォルモサ州では、零細な経営も見られる。
3 ハチの種類について
ほとんどの養蜂場では、セイヨウミツバチ(イタリア種)が飼育されているが、北部の一部ではブラジルなどで飼育されているアフリカハチ化ミツバチ(セイヨウミツバチのアフリカ種とイタリア種の交雑種)が存在する。このハチは、アルゼンチンで従来から飼育されているセイヨウミツバチに比べ気性が荒いなどのため、生産者から敬遠されている。
4 年間収穫量について
現在の1群当たりのはちみつの年間収穫量は、30キログラム程度である。しかし、20年前の収穫量は100〜140キログラム、10年前は50キログラムであった。収穫量が減少している原因としては、以下の3点が考えられる。
(1) |
近年の大豆価格高騰により、パンパおよびその周辺で大豆畑が増加し(大豆からは、はちみつがほとんど採取できないとのこと)、肉牛が国内北東部などに移動していることなどから、主要みつ源 植物の一つであるクローバーやアルファルファなどの牧草が減少していること。 |
(2) |
昨年の干ばつで、主要みつ源植物の一つであるヒマワリの作付けが減少したことに加え、一部で作付けされているGMヒマワリは、非GMヒマワリに比べはちみつの収穫量が少ないこと。 |
(3) |
このような農作物の作付け変化に伴い、生産者が適地に集中していることから養蜂場が新設できないこと、また、疾病やダニなど病害虫が以前よりまん延していること。 |
今年は1群当たりの収穫量が15〜18キログラムとさらに落ち込む見込であり、この状態が続けばはちみつ輸出にも影響が出るだろう。また、廃業者が出るかもしれない。
5 女王バチの生産について
基本的に1群に1匹の女王バチがいる。通常は、生産者が女王バチの生産を行っており、おおむね2年ごとに年間3万〜4万匹が更新される。生産は、女王バチとすべき幼虫の巣にローヤルゼリーを付ける方法をとる。働きバチはその幼虫を女王バチ候補と思いローヤルゼリーを与える習性があるので、人工的に女王バチを生産することができる。
なお、女王バチの生産を専門的に行っている者もあり、輸出も行っている大手の 生産者はラ・プラタ市近郊などに4者いる。
6 女王バチの輸出について
アルゼンチンは女王バチの主要輸出国であり、最近5年間では年間1万〜1万2,000匹がスペインやイタリアなどのEU諸国やアラブ諸国、米国などに輸出されている。輸出は、女王バチと働きバチ3匹および女王バチの餌となるローヤルゼリーの入ったマッチ箱ほどの大きさの箱20〜30箱が輸送用ケースにぶら下がった形でおさめられ、衛生条件などに問題がなければ、空路により2〜3日で目的地に運ばれる。
7 アルゼンチンにおけるハチの花粉交配利用について
ヒマワリ、リンゴ、プラム、モモ、キウイフルーツなどの花粉交配に利用されて いる。1週間〜10日間、受粉しやすい場所を正確に見極めて巣箱(群)を置くという条件で、ヒマワリなどの生産者とハチ生産者の間で取引が行われる。ハチ生産者の報酬は、1箱当たり25〜30ドル(2,440〜2,930円、1ドル=97.6円)である。
【石井 清栄 平成21年5月19日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
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