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降雨不足により農業保険への関心が高まる(アルゼンチン)

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2年続けての降雨不足

 アルゼンチンの耕種作物生産は、2007年度に期待した単収が得られなかったのに続き、2008年度についても降雨不足の影響により、生産量が大きく減少する見込みである。

 図表1は、1990年度から2009年度までのトウモロコシ単収の推移に対し、近似直線を引いてみたものである。

 これによると、トウモロコシの単収は、2000年度以降、2005年度を除き、順調に向上してきたが、降雨不足のため昨年度、今年度と続けて期待された単収が得られていないことが分かる。このような状況を反映し、農業関係者の間では農業保険への関心が高まっている。

(図表1)トウモロコシ単収の推移
(図表1)トウモロコシ単収の推移
資料: アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)、ただし2008年度以降はUSDAの予測値

民間会社が運営する農業保険

 アルゼンチンで農作物へ損害を与える自然災害とは、降ひょう(直径数センチメートル以上の大粒のひょう)、降霜、強風による倒伏と考えられてきた。

 なお、アルゼンチンの農業保険は民間保険会社が行っており、政府支援は無い。これは地震や台風などが無いため、広域にわたる大規模災害の発生が少ないことも一因であるとみられる。

(1)加入状況

 SAGPyAが公表する「農畜産業部門の保険」から加入状況を見ると、調査対象であるパンパ地域のトウモロコシ、大豆、小麦、ヒマワリなどの作付面積は約2,500万ヘクタールに及ぶのに対し、加入面積はわずか13万ヘクタールであり、加入率は極めて低いことが分かる。民間保険会社で聞き取りを行う中では、そもそも経営者の多くのが農業保険の存在を知らないことが、加入率の低さにつながっているようであった。
(図表2)単年生作物の農業保険加入面積

(2)加入方式

 保険の種類は大別して、一筆方式(注1)のひょう害型および特定災害型、全相殺方式(注2)の全災害型がある。

(注1):ほ場ごとの減収量が契約数量を下回るときに保険金を支払う方式
(注2): 経営の減収量が契約数量を下回るときに保険金を支払う方式

(図表3)種類別の加入割合
(図表3)種類別の加入割合
資料:「2007年農畜産業部門の保険」アルゼンチン生産省

支払い対象となるのは、

(1) ひょう害型の場合、ひょう害に伴う生産金額の減少
(2) 特定災害型の場合、ひょう害に併せ、凍霜害、風害などのうち付加契約を行った災害に伴う生産金額の減少
(3) 全災害型の場合、気象上の災害に伴う生産金額の減少

(3)掛け金

 B市(B市の基準単収8.5トン/ヘクタール)に100ヘクタール、C市(C市の基準単収9.0トン/ヘクタール)に50ヘクタールの2カ所にほ場を有し、トウモロコシのみを生産する場合を例示する。

(1) ひょう害型の場合
ア. B市のほ場の掛け金
8.5(t/ha)×75%(補償割合)×3.1%(B市の掛金率)×100(ha)=19.8トン
イ. C市のほ場の掛け金
9.0(t/ha)×75%(補償割合)×2.7%(C市の掛金率)×50(ha)=9.1トン
掛け金は合計でトウモロコシ28.9トンとなる。

(2) 特定災害型の場合
ア. B市のほ場の掛け金
8.5(t/ha)×75%(補償割合)×4.2%(B市の掛金率)×100(ha)=26.8トン
イ. C市のほ場の掛け金
9.0(t/ha)×75%(補償割合)×3.8%(C市の掛金率)×50(ha)=12.8トン
掛け金は合計でトウモロコシ39.6トンとなる。

(3) 全災害型の場合
ア. B市のほ場の掛け金
8.5(t/ha)×55%(補償割合)×4.1%(B市の掛金率)×100(ha)=19.2トン
イ. C市のほ場の掛け金
9.0(t/ha)×55%(補償割合)×4.5%(C市の掛金率)×50(ha)=11.1トン
掛け金は合計でトウモロコシ30.3トンとなる。

 契約は、トウモロコシの相当額の現金で契約する方式、まだ収穫していないトウモロコシや大豆を担保として、収穫後に現物で返済する方式のいずれかとなるが、資金の少ない経営者にとっては後者の方式が魅力的であるため、後者の契約が主流となっている。

(4)被害発生時の支払金

 B市のほ場にひょう害があり収量200トン、C市のほ場は被害がなく収量450トンとなった場合を例示する。

(1) ひょう害型および特定災害型の場合
一筆方式のため、B市のほ場の契約数量は
8.5(t/ha)×75%(補償割合)×100(ha)=637.5トン
となり、
(637.5トン−200トン)×129米ドル(1トン当たり生産者販売価格)=56,437.5米ドル(547万円:1米ドル=97円)
の支払金を受けることとなる。

(2) 全災害型の場合
全相殺方式のため、経営者の契約数量は、
ア. B市のほ場
8.5(t/ha)×55%(補償割合)×100(ha)=467.5トン
イ. C市のほ場
9.0(t/ha)×55%(補償割合)×50(ha)=247.5トン
の合計の715トンとなり、
(715トン−(200トン+450トン))×129米ドル(1トン当たり生産者販売価格)=8,385米ドル(81万円)
の支払金を受けることとなる。

【松本 隆志 平成21年6月22日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
Tel:03-3583-9805