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トウモロコシと小麦の輸出条件を一部緩和(アルゼンチン)

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輸出申告から輸出までの期間を延長

 国家農牧取引監督機構(ONCCA)は2009年6月23日、穀物・油糧種子の輸出登録の仕組みに追加措置を付与し、トウモロコシと小麦については生産者から政府公示価格(FAS価格)で買い上げるなどの条件を満たせば、申告から365日以内に輸出のための船積みを行えることとした。

 穀物・油糧種子の輸出については、2008年5月29日、国内市場への安定供給を確保するため、OCCNAが算出する輸出許可量までに制限され、申告から45日以内に船積みを行うことおよび船積み時に輸出課徴金を支払うことを義務付ける旨決定した(ONCCA決議543/2008号(2008年5月28日付け))。また、申告から船積みまでの期間について、ONCCAは、同年8月15日、申告時の輸出課徴金納付を条件に小麦は90日、トウモロコシは120日、大豆その他は180日以内にそれぞれ延長した。今回の追加措置により、船積みまでの期間が365日以内にさらに延長されたことにより、まだ作付けされていない2009年度産のトウモロコシや小麦に関する申告も可能となる。

 なお、今回の追加措置は、2009年5月に小麦に導入されたFAS価格での生産者からの買い上げ措置(限度数量100万トン)をトウモロコシにも適用するものである。
ア. 流通業者は生産者からFAS価格で買い上げる。(トウモロコシおよび小麦とも限度数量100万トン)
イ. 申告から365日以内(2008/09年度産および2009/10年度産の輸出が可能)に輸出できる輸出許可証の発行を申請する場合、申告時に輸出課徴金を納付する。ただし、申告時に輸出課徴金を納付しない場合は、180日以内(2008/09年度 産の輸出のみが可能)の輸出許可証の発行を申請する。ただし、180日以内の輸出許可証の発行については50万トンが限度となる。
ウ. 買い上げたトウモロコシまたは小麦は、輸出についてはトウモロコシが2010年3月15日以降、小麦が2009年12月15日以降の船積みに限られるが、国内需要に応じて国内市場への販売は自由に行うことができる。
 また、今回の措置に関する発表の中で、ONCCAは併せて、「流通業者のトウモロコシの買い上げが上限に達した場合、さらに200万トンを追加する可能性がある」ことも表明している。

(図)輸出登録の仕組み
(図)輸出登録の仕組み

トウモロコシと小麦の増産が狙い

 政府公示価格(FAS価格)は、「FOB価格×(1−輸出課徴金の税率)−緒経費」から算出される生産者販売価格の理論値になる。政府の目的は、輸出登録の仕組みを利用し、トウモロコシと小麦の生産者販売価格をFAS価格の水準まで上昇させることにより、生産者の増産意欲を高めることにある。

 以下の表は、FAS価格を国内市場価格で除すことにより、その価格差の変化を見たものである。グラフの上に行くほど、FAS価格に対して国内市場価格が割安であることを示しているが、大豆に比べてトウモロコシ、小麦とも割安で推移していることが分かる。

 大豆は輸出制限がないため、生産者販売価格はFAS価格に近い水準で推移するが、輸出が制限されるトウモロコシや小麦の生産者販売価格は、そのリスク分が価格から割り引かれる傾向があることから、今回の追加措置はこれを解消することが企図されている。

(表)FAS価格と国内市場価格の関係
(表)FAS価格と国内市場価格の関係

流通業者は小麦のみに関心

 流通業者が構成する団体であるアルゼンチン油産業会(CIARA)で、今回の追加措置の評価について尋ねると、「小麦の国内需給は、今年度、来年度ともひっ迫すると見込まれているため、この仕組みを積極的に利用する流通業者も現れると考える。一方、トウモロコシの国内需給は、小麦ほどのひっ迫感が無いため、この仕組みを利用する流通業者は少ないのではないか。トウモロコシの国内需給は、割高な価格を支払ってまで在庫を十分用意しなければならない程度まではひっ迫していないと考える。」とのことであった。

 また、ONCCAは、需給情勢によっては輸出許可証の発行を見合わせる可能性もある。その場合、流通業者が申請時に支払った輸出課徴金は、当該業者の将来の申告時に繰り越されることにとなる。

 また、生産から流通に至る関係者が構成する団体であるアルゼンチントウモロコシ協会(MAIZAR)でも、「今回の追加措置はトウモロコシに適用拡大するものであるが、買い手が少ない小麦(流通業者が製粉用に生産者から直接購入する場合がほとんどであり、最終需要者が直接購入することはまずない)と異なり、さまざまな買い手が存在するトウモロコシ(流通業者のほか、畜産農家や食品産業など最終需要者が直接購入することも多い)は、流通経路が複雑である。このため追加措置により、流通業者の購入価格が引き上がることは期待されるものの、トウモロコシの生産者販売価格を全体的に引き上げることは小麦とは異なり困難である。」とのことであった。

価格上昇を認める方向へ転換か

 政府の狙いは、流通業者が適正な価格で生産者から買い上げることにより生産者販売価格を引き上げ、トウモロコシと小麦に増産意欲を与えようとするものである。一方で、その結果として国内の食料品価格が上昇する可能性も高まる。

 これまで政府は、インフレ対策として輸出制限により国内の食料品価格の抑制を図ってきたが、価格上昇を覚悟してまで、生産者にトウモロコシと小麦の増産意欲を与える仕組みを発表したのは、政策方針の転換の兆しともみられる。
【松本 隆志 平成21年6月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
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