JBS社と第三位の牛肉パッカーが経営統合へ(ブラジル)
統合後は、国内では4頭に1頭、世界では13頭に1頭の牛をと畜
国内牛肉パッカー第一位のJBS社と第三位のベルチン社は9月16日、両社の経営統合などに関する協定に署名したことを発表した。今回の発表によると、JBS社とベルチン社は今後新会社とその持ち株会社を設立する。持ち株会社は新会社の株式の60%を保有し、40%はBNDES(経済社会開発銀行)および一般投資家に割り当てられる。なお、持ち株会社の出資比率は、JBS社が60%、ベルチン社が40%になるとみられている。
両社のブラジル国内の一日当たりの牛のと畜頭数は、4万3400頭と同国のと畜頭数の27%を占める。
また、グループ企業を含めた世界全体では、同9万390頭とほぼ8%に相当する。年間総売上高では、287億ドル(約2兆6400億円、1ドル=92円)と今年の5月に発表されたブラジル鶏肉パッカー第一位のペルジゴン社と第二位のサジア社の合併による新会社「ブラジル フーズ」の売上高の2倍以上となる。さらに、同日付けで買収を発表した米国鶏肉パッカー最大手のピルグリム・プライド社を合わせると、米国のタイソン・フーズ社を抜き、世界最大の食肉パッカーとなる。
ベルチン社とマルフリグ社の経営統合によるシェア拡大阻止を企図
国際金融危機の影響などで牛肉部門を除く食品部門の不振などから、持ち株会社が巨額の債務を抱えていたベルチン社は、JBS社と業界第二位のマルフリグ社の双方と経営統合などについての交渉を行っていることが報じられていたが、業界関係者の間ではマルフリグ社との経営統合になるとの見方が大勢であった。よって、今回の発表は驚きをもって受け入れられている。今回のJBS社とベルチン社の経営統合の背景には、ベルチン社とマルフリグ社が経営の主導権をめぐって交渉が最終的な合意に至らない中、マーケットシェアを重視するJBS社が、ベルチン社とマルフリグ社が経営統合した場合のシェアが同社のシェアを上回るため、これを阻止するため動いたとみられる。
市場の寡占化による不安を隠しきれない生産者
今回の経営統合により、ブラジル国内の牛肉市場は寡占化が進展することになるが、肉牛生産者団体は、一部のメリットがあるとしながらもやはり不安を隠しきれないでいる。生産者団体幹部は、この発表を聞いたばかりなので、詳しいコメントはできないとしながらも、「メリットとして、今回の経営統合で肉牛出荷に対する生産者への支払いはより保証されるものとなるだろうが、価格交渉などを考えた場合、市場の寡占化は好ましくない。中小規模の牛肉パッカーも存在し、生産者により多くの販売経路を持たせるべきである。」としている。
これに対し、ステファーネス農相は、今回の経営統合に対する直接のコメントは避けながらも、生産者を保護する立場から、大手農業関連企業の経営統合などによる市場の寡占化は支持できないとしている。だがその一方で、国内の企業育成を考えた場合、輸出競争力が一層強化されることなどのメリットがあることも認めている。今後の経営統合による新会社は、経済擁護管理審議会(CADE、ブラジル国内の市場の独占を規制する機関)の審査に付され、その承認を得る必要がある。
また、今回の経営統合は、消費者にとっても不安材料となっている。市民団体のブラジル消費者擁護院(IDEC)関係者は、「市場の競争が減るたびに独占のリスクが発生し、カルテル化のリスクが伴う。当局はこの点に注意すべきである。」としている。なお、民間調査会社の見解は、輸出競争力の強化につながるなど好意的な見方が多い。
今後も規模拡大が続くJBS社
JBS社は、ベルチン社との経営統合、ピルグリム・プライド社の買収の前にも、ブラジル国内で会社更生法を申請した中堅牛肉パッカー、クアトロ マルコス社から5工場を借り受けるなど、拡大戦略を続けてきた。同社のジョエスレイ・バチスタ社長は、「今回の経営統合や買収などでタイソン・フーズ社を凌ぐことになったが、戦いは始まったばかりである。ここまで到達できたのは、我が社が投資を継続する力を持っていたからだ。」と述し、「今年はもう新規買収の計画はないが、2010年は再び新しい発表を行うことになるだろう。」と述べている。
【石井 清栄 平成21年9月25日発】
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