南米の農畜産業をめぐる情勢(2009年11月)
(アルゼンチン)
再度制定した「農牧緊急法」の施行細則を制定
政府は、気候・生物学・物理的な要因による農牧部門の生産に対する損害について防止または緩和することを目的とした「農牧緊急法」を8月に一度廃止し再度制定したが、これを実行に移すための施行細則を制定した。
同細則により、以前の法律にはなかった基金が設置され、緊急事態宣言を受けた州では、各自の農産物生産量の50%以上の被害を受けた生産者に対して基金から補償金の支払などが行われる。また、所得税の減税や租税滞納による関係当局からの司法訴追の中止期間が以前より延期される。なお、同細則は12月1日から施行され、現在干ばつの被害を受けているブエノスアイレス州、リオネグロ州、コルドバ州など13州が緊急事態の宣言を受けた。
2009年の穀物輸出は、数量、金額とも大幅に減少の見込み
穀物を扱うロサリオ商品市場の予測によると、2009年のアルゼンチンの穀物(大豆、トウモロコシ、小麦、ヒマワリの主要4作物とその副産品(粉および油脂))の輸出は、長期にわたる干ばつの影響などにより数量で前年比33%減の約4800万トン、金額で同40%減の170億ドル(約1530億円、1ドル=90円)になる見込みである。
(ブラジル)
2008年の牛飼養頭数は、前年比1.3%増の2億230万頭
IBGE(ブラジル地理統計院)によると、2008年のブラジルの牛飼養頭数は、前年比1.3%増の2億228万7000頭となった。飼養頭数の35%程度は中西部地方が占め、このうちマットグロッソ州が2601万8000頭と最大となった。また、主要生産州別の増減を見ると、雌牛頭数の増加や牛肉パッカーの進出などにより、パラ州が同5.8%増の1624万1000頭となったのに対し、サンパウロ州が草地からサトウキビ栽培への転換により、同5.1%減の1118万6000頭となった。
なお、IBGEによると、2008年の牛と畜頭数は、同6.6%減の2869万1000頭となった。また、同年の一人当たり牛肉消費量(枝肉換算ベース)は35.2キログラムとみられている。
アルゼンチンの大手大豆企業がブラジルなどに進出
MSU社、EL TEJAR社などアルゼンチンの大手大豆企業は、輸出課徴金の徴収や干ばつの影響などにより、ブラジルやウルグアイに進出する動きが目立ってきている。これら業者のブラジルでの栽培面積は、平均で前年比80%程度拡大する見込みである。
関係者によると、アルゼンチンの大豆生産の拡大余地は、わずか300〜400万ヘクタールしかなく、その大半は地力に乏しい土壌である。これに対し、ブラジルには農地開発により、上質な農作物を栽培できる土地が2000万ヘクタール存在し、土地の価格も手ごろとのことである。
また、ウルグアイの農村連盟の調査によると、同国の大豆栽培面積(100万ヘクタール)の35%程度は、アルゼンチンの企業などが進出している。
JBS社、2009年中にロシア工場の操業を開始
JBS社および同社が2007年末に株式の半分を取得したイタリアのCREMONINIグループとのジョイントベンチャーであるINALCA JBSは今月、モスクワ近郊のOdinzono市でハンバーグ製造工場の操業を開始する予定である。同工場は、敷地面積が2万5000平方メートルで、年間2万5000トンのハンバーグ生産が可能となっている。投資額は8000万ユーロ(約104億円、1ユーロ=130円)で、製造されるハンバーグは大手ハンバーガーチェーン、マグドナルド社の137店舗(ロシア国内37都市)に供給される。
なお、同社の2009年第3四半期の純利益は、JBSアルゼンチンにおける業績不振などにより、前年同期比78.2%減の1億5150万レアル(約77億2700万円、1レアル=51円)となったが、ロシア工場の操業開始などにより、今後業績は回復する見込みであるとしている。
(チリ)
EUがBSEの危険性が無視できる国に認定
チリのホルンコール農相は、EUが11月11日付けで同国をBSE(牛海綿状脳症)の危険性が無視できる国として認定し、すべての加盟国に通達したことを公表した。
同農相は、EUが同認定を行ったのは11カ国しかなく、チリが認定を受けたことで衛生面では世界で最も優れた国の一つとして認められたとし、「われわれは目下EUへの輸出を拡大中であるが、同認定が出たことでチリの動植物の衛生は素晴らしい状態にあることが理解され、チリ産牛肉の信頼度が増すであろう。」と語った。
【石井 清栄 平成21年12月21日発】
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