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ボエル委員が新たに2億8千万ユーロの財源を酪農対策に用意する旨表明(EU)

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脱脂粉乳の飼料としての処分を除き先週の21加盟国共同提案に応える内容

 欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業、農村担当)は10月19日、ルクセンブルクで開催された農相理事会において、2010年度の酪農対策予算として新たに2億8千万ユーロ(約384億円、1ユーロ=137円)の財源を準備する用意がある旨発表した。これは、先週にEUの27加盟国中21カ国が共同で提案した3億ユーロ(約411億円)の酪農基金創設に対応するもので、同提案のうち脱脂粉乳の飼料としての処分に対する補助の再導入を除く事項を網羅する内容となっている。

 ボエル委員は具体的には、
  • バター、脱脂粉乳の介入買入期間およびバターの民間在庫補助の期間をそれぞれ2010年2月末まで延長すること(次期の実施期間に切れ目なくつなげるための措置)
  • 輸出補助金については、国際市場の改善状況を考慮し、その対応を判断すること
  • 蓄積したバター、脱脂粉乳の介入買入在庫の放出は域内市場を悪化させないよう配慮すること
  • 共通市場制度(CMO)規則第186条の対象に新たに乳製品を加えることにより、域内価格が乱高下した場合の緊急対策について欧州委員会の判断で機動的な対応が可能となるように提案していること
  • この拡大された第186条の下で2010年の予算にさらに2億8千万ユーロの財源を配分する用意をしたこと
    (ただし、最終的には11月19日に開催される財務大臣会合で採択する必要がある)
  • 加盟国によるクオータの一時的な買い取りも提案していること
  • 一戸当たりの補助の上限も一時的に通常の倍(1万5千ユーロ)に拡大することを提案していること
  • 酪農に係る中長期的な課題に対処するために先日立ち上げたハイレベルグループの議論の成果に期待していること
  • 脱脂粉乳の飼料としての処分スキームの再導入は、その効果に疑問があることから支持できないこと
といった個別の事項に触れ、21加盟国からの提案に最大限配慮したことを示した。「酪農基金創設」については、ドイツ、フランスなどから再三にわたり要請されていたにもかかわらず、これまで肯定的な見解を示していなかっただけに、今回のボエル委員の発表は、欧州委員会としての最大限の譲歩と見ることができる。
実際、ボエル委員は、上記のスピーチの中で、農業予算の予備費として別途確保する必要がある3億ユーロ以外に2010年度に活用できる財源がないことを繰り返し強調しており、今後さらなる要求がなされたとしても無い袖は振れないこと、つまり、これ以上の譲歩はないことをほのめかしている。

 一方でボエル委員は、農村開発予算の一環として酪農部門の再構築にも活用できる6億6千万ユーロ(約904億円)相当と、事業の実施が各加盟国の裁量に委ねられている2億4千万ユーロ(約329億円)相当が2010年度以降に利用可能となるにもかかわらず、今回酪農基金創設を声高に主張してきた加盟国が、これらのスキームの有効活用について積極的に欧州委員会側に提案をしてこなかったことについて「大変な驚きである!」と批判しており、今回の2億8千万ユーロの提案が、生産者による一連の抗議行動を鎮静化するための苦渋の選択であったことをうかがわせるものとなっている。

もうひとつの懸案事項であった遺伝子組み換えトウモロコシの承認は先送りに

 前述の酪農危機対応に次いで議論の動向が注目されていた遺伝子組み換えトウモロコシの承認については、当地報道によれば、今回は合意に至らず欧州委員会で改めて検討されることとなったとされている。今回議論の対象となった遺伝子組み換えトウモロコシについては、その微量の混入が原因で、米国からの大豆および大豆かすの輸入が差し止めとなる事態が頻発していることから、ボエル委員が再三にわたり各加盟国の理解を求める発言を行っていたものである注。今回のケースは、欧州食品安全機関(EFSA)で肯定的なリスク評価結果が示されており、かつ、実際に域内の飼料原料の安定供給に支障を来しかねない状況になっているにもかかわらず、結論が先送りされたということは、この課題の対処の難しさを改めて浮き彫りとする形となったと言えよう。


注:海外駐在員情報「ボエル委員、各国農相に輸入飼料原料中の未承認GM作物混入に現実的対応を求める(EU)」(9月14日発)参照
(ボエル委員のスピーチ(10月19日付))
【前間 聡 平成21年10月20日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:井上)
Tel:03-3583-9535