乳価の引き下げなどにより酪農家の経営に対する期待感が低下
将来の経営に楽観的と回答した酪農家は前年よりかなり減少
デイリー・オーストラリア(DA)は6月3日、2009年度の酪農の現状および見通しに関する報告書を発表した。これによると、2008/09年度(2008年7月〜2009年6月)、同国の主要酪農地域である南部の酪農家は、国際乳製品価格の下落などから、過去35年間で初めて期中での乳価の引き下げを経験した。このため1戸当たりの平均農家収益も当初に比べ大幅な減少が見込まれている。こうした状況下、DAが千戸の酪農家を対象に行った2009年の経営意識調査(2009年2〜3月実施)によると、将来の酪農経営に楽観的であると回答した酪農家は、66%と2008年の78%から12ポイント減少した。また、回答者の76%が乳価引き下げの影響を受けたとしている。
酪農家の経営意識は地域間で大きな違い
楽観的であると回答した酪農家の割合を地域別に見ると、飲用向け比率の高いニューサウスウェールズ(NSW)州北部およびクイーンズランド(QLD)州南部では、高水準の乳価、良好な天候要因から、81%と最も高い。一方、加工原料向けの比率の高いビクトリア(VIC)州北部およびNSW州南部リベリナ地域では、乳価の引き下げや乾燥気候を背景に、51%と最も低かった。このように、地域間で酪農家の経営意識に大きな違いがあることがうかがえる。
2008/09年度における1リットル当たりの最終乳価を見ると、VIC州は、前年度比25%安の35〜38豪セント(28〜30円:1豪ドル=80円)と大幅な下落が見込まれる一方、QLD州やNSW州の飲用乳地域では、初期乳価が年度を通じて実質的に保証されていることから、同10%高とされている。なお、豪州全体では、同20%安の40豪セント(32円)と見込まれている。
生乳生産量、2009/10年度は多くとも前年度並みの見込み、中期的には増加見込み
2008/09年度シーズン当初、初期乳価が高く酪農家の増産意欲が高まったことなどから、良好なスタートを切ったが、南部を中心とした天候不良や期中での異例の乳価切引き下げによる乳牛飼養頭数規模の縮小、補助飼料の使用率の低下などから、生乳生産量は、前年度並みの920万キロリットルと見込まれている。
2009/10年度については、搾乳牛の更新率が低いものの、ほとんどの地域で飼料の供給状況が好転すると見込まれ、搾乳牛のとう汰頭数が減少することから、ピーク時の搾乳牛飼養頭数は前年度より2〜3%増加するとみられている。一方、乳価が前年度比で10〜15%低下すると見込まれることや、VIC州北部では搾乳牛飼養頭数の減少が見込まれるなどから、生乳生産量は、前年度を2.2%下回る900万キロリットルから前年度並みの920万キロリットルと予測されている。
また、今後3年間で生乳生産量を増加すると回答した酪農家が全体の約6割を占めるなど、昨年の調査と同様、将来的な増産意欲は高いことから、3年後の2011/12年度の生乳生産量は、天候条件が平年並みであることを前提にした場合、970万〜1,010万キロリットルと増加すると見込まれている。
マレー・ダーリング集水域南部の酪農家は、天候により今後も厳しい酪農経営
今回の意識調査で挙げられた酪農家の関心事項として、最も多いのが乳価の引き下げであるが、次いで多いのは、気候、生産コスト、かんがい用水の利用である。DAでは、乳価が低下傾向にある中、特に、VIC州北部とNSW州南部を中心とするマレー・ダーリング集水域南部でかんがい用水に依存する多くの酪農家にとっては、天候が回復しなければ、今後さらに厳しい経営を強いられるとしている。
【玉井 明雄 平成21年6月10日発】
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