厳しい状況に立たされる米国の酪農家
乳製品の国際価格の下落で生産者乳価が急落
2007年後半から2008年夏頃にかけて乳製品の国際価格は高騰した。これは乳製品の主要輸出国である豪州やニュージーランド(NZ)での干ばつの影響により国際市場への乳製品供給量が減少したことや産油国などで乳製品の需要が増したことなどによる。こうした乳製品の国際価格の高騰を受け、輸出競争力を得た米国の乳業界は輸出需要に沸き輸出量を拡大していった。
しかし昨年夏以降豪州やNZの乳製品生産が回復したことや、世界的な景気の後退を受けて乳製品の国際価格は急落し、輸出需要に支えられていた米国の乳製品価格も下落した。
これに連動して生産者乳価も急落した。米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)によると2009年2月の生産者販売価格は11.50ドル(生乳100ポンド当たり。以下同じ。)と前月の13.30ドルより1.8ドル下げ、この半年間で6.7ドル(36.8%)下落している。酪農家はこの状況を改善するために乳牛のとう汰を進めており昨年12月から本年2月までの乳牛のと畜頭数は前年同期を15.1%上回る75万4千頭となっている。
西部地域で多くの乳牛のとう汰が実施
この40年間ほぼ一貫して乳牛飼養頭数を拡大し、米国最大の生乳生産量を誇るカリフォルニア州だがここにきて状況は一変し、飼養頭数を減らさざるを得ない状況に追い込まれている。USDA/NASSによると昨年12月から本年2月までの3カ月間で全米では乳牛飼養頭数の減少数が3万6千頭と、総乳牛飼養頭数の0.4%が減少している。うちカリフォルニア州で1万6千頭と同州の乳牛頭数は0.9%が減少している。
次いで同じく西部地域のワシントン州が4千頭(同1.6%)の減少となっている。生乳生産量第2位のウィスコンシン州(中西部)では飼養頭数は維持されている。乳価の下落を受けて昨年末から本年2月まで生乳生産者団体による第6回牛群とう汰事業が行われた。第5回の牛群とう汰事業が行われてから半年で第6回の事業が行われ、しかもその規模が拡大している。
公表された地域別の統計を見ると、今回のとう汰事業では、西部地域の酪農家の参加割合およびとう汰頭数の割合はそれぞれ全体の26.3%、47.0%にまで拡大している(図1、2)。このことから西部地域での事態の深刻さがうかがえる。
生産者の規模縮小の意向の表れ
カリフォルニア州における生産者の増頭意欲の低下は、初妊牛の価格にも反映されている。USDA/NASSが四半期毎に公表している初妊牛の2009年1月の価格は急落しており、前年同月比33.3%安、前回公表時(2008年10月)の価格より29.4%安と、全米平均に比べ突出して下落している。(図3)
米国の酪農家は搾乳牛頭数の削減により、生産減に努め、乳価の上昇を期待するところであるが、3月18日に公表された同省経済調査局(USDA/ERS)の予測によると2009年の生産者販売価格はポンド当たり11.25ドルから11.85ドルの範囲になるものとされている。これは過去30年での最低水準であり、米国の酪農家にとっては厳しい状況が続くものと考えられる。
【中野 貴史 平成21年3月30日発】
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